Θ 10秒前 Θ
「このぐらい……でしょうか?」
「もっとだ」
「ではこのぐらい?」
以前のように葉村くんを押し倒し、身体を密着させる。
好意を伝える方法として色仕掛けを知った私は、
たまたま通りかかった葉村くんを押し倒したのはつい最近の出来事だ。
「も、もっとだ」
「……、このままでは唇がくっついてしまいます」
密着しすぎて目の前に迫る葉村くんにそう告げると、
彼は真っ赤な顔をした。
「あ、改めて言うなよ」
「では離れますか?」
そう言って身体を離そうとすれば、
いつの間にか背中に回った葉村くんの手がそれを拒む。
「そ、そのままでいいんだよ」
「ではこのまま唇もつけると?」
「だ、だから、どうしてお前はそういちいち指摘するんだよ」
「事実だからです」
「そうじゃなくて〜〜〜ッ」
葉村くんが顔を赤らめる理由がいまいち分からない。
私と葉村くんはお付き合いをしているのだから、身体を密着させても良いと言った。
だからそれを実行したというのに、本人は顔を赤らめてばかりなのだ。
「お前には羞恥心がないのか?」
「人並みにあるとは思いますが……ですが」
そう言葉をきってジッと彼を見つめる。
「私は葉村くんが好きですから、密着したいのも当然のことかと思います。今更照れる必要もないのでは?」
問いかけると
「お、お前が好きすぎて頭がおかしくなりそうなんだよ!」
ヤケクソのように一気に捲くし立てた。
彼は言葉は悪いけれどいつだってど真ん中のストレートで言葉を投げる。
だからこそ、にぶい私の胸にも響くのだ。
「葉村くん…………」
「な、なんだよ」
「私も恥ずかしくなってきました」
「はぁ?! っつーか、どこに照れる要素があったんだよ」
真っ赤な顔で二人して固まったまま、照れたように笑う。
その唇が触れ合うのは、あと10秒後。
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