Θ 猫 Θ
走り去る猫の背中を見ながら、空閑くんはポツリと呟くように口を開いた。
「僕、いつも猫に噛まれちゃうんだ……」
そう自嘲気味に笑った空閑くんの顔は少しだけ寂しそうで、
(……どうすればいいのでしょう)
思わずそんなことを考えてた。彼のそんな顔は見たくないと思ったからだ。
「空閑くん!」
妙案が浮かんで口を開くと、思っていた以上に大きな声が出てしまった。
隣でビクッと彼の肩が震えたのが分かる。
「な、なに?」
ビクビクと、会った頃のような態度を彼に取らせてしまったことを申し訳ないと思いながら、
なるべく脅えさせないように優しく声をかけた。
「……ニャア」
両手は招き猫のように顔の横で曲げてみる。
「へ?」
突然の行動で驚いているのか、目を丸くしている彼にもう一度同じようにないて見せた。
「えーと……、その、菅野……さん?」
困惑している彼に、私はポーズをとるのを中断して口を開いた。
「私なりにどうすれば猫と仲良くなれるか考えてみたのですが」
「うん」
「答えが得られなかったので私が猫のかわりになろうと思いました」
「……え?」
驚く彼に無表情のまま「ニャア」とないた。彼はまだ驚いているようだったけれど、
「あり…がとう」
小さくお礼を言う彼に、嬉しくなって微笑んだ。
けれどそんな私を空閑くんは真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「でもね、菅野さん。……僕、は菅野さんとは、人間として……その、仲良くしてほしいんだ」
「猫はいいのですか?」
「うん。だ、だって……、人間の菅野さんじゃないと、お話、できないでしょ?」
一生懸命自分の気持ちを告げようする彼の姿に、「そうですね」と笑みを返す。
「僕、菅野さんと話すの……とっても好き……だから」
はにかむように告げられた彼の言葉に、なぜか私の頬まで熱くなったような気がした。
(……何故?)
首を傾げる私の横で、
「は、早く…帰ろう?」
空閑くんがそう告げるから、
「そう、ですね」
私も並んで歩きだした。
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