Θ 君にキスを Θ





前は四人できた遊園地に、今日は水窪君と一緒にやってきた。 例の如く水窪君は嫌がる私を無理やりに引っ張ってオバケ屋敷に三回も入った。 清々しいほどの爽やかな顔で「楽しかった」と言われては怒るに怒れなくて、

「次はどうしようか」
「守永さんの反応が楽しめるなら何でも」

と言われてようやく私はオバケ屋敷に三回も入ったのは私が嫌がったからだと気付いた。 私が怒ったように頬を膨らませると、彼はようやく苛めすぎたことに気づいたようで、

「次は君の好きなものにしよう」

と言ったので、私は観覧車を指差した。 前に来たときも水窪君と二人で乗った観覧車。




あの時のように空からの景色はすごく綺麗だった。 ただ一つ違うのは、今の時間が夕暮れ時ということ。夕日が海を赤色に染めている。

「知ってる? 守永さん」

正面に座った水窪君が、窓の外を眺めながら尋ねた。

「ここの観覧車って、てっぺんでキスしないと料金割り増しになるの」
「えぇ? そ、そんな話聞いたことないし、この前だってしなかったじゃん」

視線を水窪君へと向けて答えると、彼はふふっと笑って私を見た。

「なんだ、残念。この間ドラマでそんなこと言ってたから使えるなって思ってたのに」
「み、水窪君は……、その……したいの?」
「それはもちろん」

予想外に即答されて、私は真っ赤な顔で俯いてしまった。

「そんな可愛い顔されたら、それ以上もしたくなる」
「えぇっ!?」

思わず背もたれに背中をぶつけるぐらい身を引いてしまった。 そんな私を水窪君はクスクスと笑う。

「知ってる? 守永さん。……俺って、逃げられれば逃げられるほど、燃えるタイプなんだ」

ゆっくりと立ち上がった彼が、私の方へと近づく。 ここは狭い観覧車の中で、逃げる場所なんてはじめからない。 あわあわと怯えるように身を縮こまらせる私を、楽しそうに水窪君は見ている。

「守永さん……」

私を見つめたまま彼の手が伸びて、頬に触れる。 思わずビクリとした私に彼は困ったように笑顔を見せる。

「苛めすぎたかな?」

そのままゆっくりと近づいた顔を見ていることができなくて、ぎゅっと目を閉じる。 けれどいつまでたっても唇には何も触れず、そっと目を開けると水窪君の顔が近くにあった。

「わっ!」
「じっとして……」

その言葉に再びギュッと目を閉じると、なんだか息苦しくなった。

「ん?」

困惑しながらも目を開けると、実に楽しそうな顔で水窪君は私の鼻をつまんでいた。




「な、なな、なにやってるの!」
「うーん。キスするつもりだったんだけどあまりに無防備な顔だったからちょっと悪戯したくて……」
「悪戯って……だからってなにも鼻をつままなくても……」

せっかくの甘い雰囲気が完全にパーになってしまった。 水窪君の手から逃れると、私は盛大な溜息をついた。

「ん? どうかしたの?」

恋する乙女の気持ちなんて、男の子の水窪君には分からないだろう。 だから、「なんでもない」と答えると彼はふっと笑って何の予告もなしに私の唇を奪った。 いや、予告なんてされても困るけど、でも甘い空気なんてさっきの出来事で吹っ飛んだはずなのだ。

「な、なな、な……!」

驚いてそれしかいえない私を、水窪君は見つめる。

「俺だけが守永さんにキスしたいって思ってるのかなって思って、さっきは鼻をつまんだんだけど」

私はまだ混乱する頭で彼の言葉を待つ。

「なんだか君も、残念がってるふうに見えたからだからキスしたんだ……」

と彼は言った。そして、「違った?」と尋ねるものだから、

「違…わ……ない、です」

私は真っ赤な顔でそう答えるしかなかった。 私の返事に水窪君はにっこりと笑うと、

「そうだと思った」

と妙にキッパリ言い切るものだから、彼には敵わないとしみじみ思うのだった。




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この人は書いてて段々恥かしくなります…