授業中にふと窓の外が明るくなったと顔を向けると、またしても雪が降っていた。
「あっ、雪!」
嬉しさのあまり声に出して反応してしまった私は、
「雪? あぁ、また雪が降ったのか。でも今は授業中だから、俺の話を聞いてね」
「……あ」
今度こそ宗哉兄さんに注意されてしまった。
すぐに授業が再開したけれど、私は窓の外の景色に心奪われていた。
Θ ふわり、ふわり Θ
珍しく隣の席が静かなのに気づいて顔を向けると、紳は食い入るように窓の外を眺めていた。
雪でも見ているのだろうか。そう思って声をかけると、紳はすぐに振り返った。
「どうしたの? 考え事?」
「……別に」
紳は窓の方へと視線を戻す。
「紳、もしかして見とれてた? 綺麗だもんね、雪」
そう言っても紳は反応を示さない。なんだか悔しくなって私は言葉を続ける。
「あ。雪は嫌いなんだっけ。でもやっぱり撮りたくなったんだ」
「……思ってないよ」
今度は返事があった。けれどやっぱり紳は雪が嫌いなままだった。
それなら一体、何をそんなに真剣に眺めているんだろう。
「そうなの? ふーん。じゃぁなにを見てるの?」
紳の視線の先が気になって、紳の肩口に近づくと、紳は狼狽した。
「うわっ、バ、バカッ。こっちくんな」
「えー。紳、ひどーい」
そんな私たちの会話を、誠悟はクスクスと笑った。
「桜衣。紳は窓に映ってた桜衣を見てたんだよ」
「うわっ、な、なに言ってんだよ。誠悟!」
誠悟の言葉に紳は真っ赤な顔で立ち上がり、
「明戸くんは桜衣さんに見惚れてたんですね」
稲船くんはのほほんと思ったことを口にした。
「だ、だだ、だーれがこんなやつに見惚れるかっつーの!」
紳はそのまま私を指差して叫んだ。
けれど真っ赤な顔でそういわれても全然説得力がないわけで、
つられるように私の頬まで真っ赤に染まってしまった。
「おーい、みんな。今は授業中だってこと知ってたかなー?」
一人のけものにされたままの宗哉兄さんはそう言って仕切りなおすようにパンパンと手を叩くと、
何事もなかったかのように授業を再開した。
けれど、私の耳にその言葉は入ってはこなかった。
さっきまで窓の外の雪に心を奪われていたのに、そんなことも忘れていた。
私はもう、紳に心を奪われていた。
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