Θ 紙の上の未来 Θ
放課後の教室で、私はせっせと紙飛行機を折っていた。
渡された紙は進路志望表。
自分の進路が見えなくて、何を書いたらいいのかわからなくて、
帰り際の白原君を捕まえて尋ねたら、
「紙飛行機でも作ったら?」
なんて言ったから、せっせと折ってみた。
「おーい、書けたかー?」
そう先生が声をかけてきたから、私はちょうど完成させた紙飛行機を先生に飛ばした。
「なっ…! 依藤、お前まで反抗期?!」
カツンと額にぶつかった紙飛行機を握りしめて、先生はいつものように泣き真似をする。
「違いますよ、先生」
「そうか? じゃ、今度はちゃんと書くんだぞ」
そう言って先生はもう一枚の進路希望表を私の机の上に置く。
「はーい」
シャーペンを握り締めた私を見て、
先生は「うんうん」と納得すると空いている席に腰をおろした。
サラサラと埋められたのは最初の名前の部分。
けれど、第一希望・第二希望・第三希望と書かれた欄に書く言葉が見つからない。
「おーい、手が止まってるぞ? 難しかったら就職か進学か。それだけでもいいぞ。
卒業して、お前はどっちの道に進みたいんだ?」
そんなことを言われても、まだまだ先のことだ。
この教室で皆とワイワイしていることの方が、今の私には楽しい。
卒業したらきっと皆とは会えなくる。
いや、皆となら互いに連絡を取り合って会えるかもしれない。
ただ一人。連絡を取っても会ってもらえるかわからない人なら浮かんだ。
「…………」
プリントを裏返し、私はシャーペンを走らせた。
それからすぐに手を離すと、またせっせと紙飛行機を折る。
「先生っ」
「お? できたか?」
にっこりと笑う先生に、答えるように微笑む。
そして再び私の手の中には紙飛行機が用意されていて、
「えぃっ」という掛け声とともに先生に投げた。
「依藤……。先生、泣くぞ」
「泣いてもいいですけど、ちゃんと見て下さいよ」
言って紙飛行機を指差して、私は鞄を掴んだ。
「お、おい。まだ帰っていいとは……」
「大丈夫です。私の将来なら……ちょっと見えましたから」
にっこりと笑って私は教室を出た。
あの紙飛行機を広げた先生は、真っ赤な顔をしているのか、それとも困った顔をしているのか。
それを見られないのは残念だったけれど、私は清々しい気持ちでいっぱいだった。
プリントの裏にはたった一言。 卒業後も先生の隣にいたいです。 とありのままの本心を書いた。
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