Θ 貴女に捧ぐ愛の詩 Θ





ノルの正体がリーディの兄であることは私とノルの秘密だ。 相変わらずルカは私の家に居候しているから、基本的には生活はなんら変わりない。



学校から帰宅するとルカは外出していて、ノルはテレビを見ていた。

「ただいま……」

そう告げると

「お帰りなさい、亜貴様。夕飯はチンして召し上がってくださいね」

と返事が返ってきた。

「どこかにでかけるの?」
「いえ。特にそんな予定もございませんが……部屋にいてはまずいのですか?」

逆に質問され私は慌てて口を開く。

「違うよ。ご飯支度だけ先にしたみたいだから」

そう、家にいるのにご飯支度だけ先に済ませたノルが不思議だったのだ。

「あぁ、今日は私の楽しみにしているドラマのスペシャルなんですよ」
「私の扱いってドラマ以下なの」
「そのようですね」
「え? 」

思わずノルを見るが、彼はテレビに夢中で私の視線に気付かないフリをした。

「冗談ですよ、亜貴様。ドラマが気になってうっかり料理に押し入れで収穫した茸を入れてしまったら大変でしょう?」
「そんなのとっとかないで捨ててよ! はっ…まさか昨日の茸料理は……」
「亜貴様。ドラマが始まりますのでお静かに」

ピシャリと言われては私は何もいえない。 この部屋は私の部屋で、ノルはリーディに隠し事をしていて、 どう考えても私が主導権を得るはずなのに、ノルは変わらず黒ノルのままだ。



夕飯を一人で食べ、お風呂に入ってもノルはテレビに夢中で、 私だって見たいテレビがあるのにと思いながら部屋の隅で膝を抱えて座った。





「……様、亜貴様」
「んん……」

肩を揺すられルカが帰ってきたのかと目を開ける。 だが、私を揺すっていたのはルカではなくてもとの姿に戻ったノルだった

「!」

驚く私をみながら、彼は綺麗な笑みを見せた。

「そんなところで寝ては風邪を引きますよ」
「だってノル。テレビに夢中だったじゃない」

指摘すると彼はニコリと笑う。

「おや、私のせいで布団がひけなかったと? 声をかけてくださればよろしいのに」
「……だって、私のことなんてほったらかしじゃない」

そう呟くと、

「拗ねてらっしゃるんですか? 可愛い人ですね」

と綺麗な顔のまま言ってのけた。

「かっ、かわっ!?」
「ふふ。そんな反応を見られると嬉しいですね」

ニッコリと笑ってみせるノルに少しばかり嫌な予感がした。

「もしかして今の台詞って……」
「はい、言ってみたかっただけです」

シレッと答えたノルに殺意を覚えた。 けれどノルはそんな私をそのままに、顔を覗き込むと 「不貞腐れた顔も可愛いだけですよ」と笑う。



「ご、誤魔化されないんですからね!」
「おや残念。私は亜貴様が笑ってくだされば満足ですのに」
「んなっ」

私は再び真っ赤になってしまう。

「そのルビーのように染まった貴女を、私だけのものにしたい」

ノルの目が、私の目を覗き込む。

「二人が出会った桜の木に誓いましょう。生涯共にあることを……」

ノルの言葉に思わず私はつっこんだ。

「それ、ドラマの台詞でしょう」
「おや、バレましたか?」
「バレるわよ、私たち桜の木で出会ってないし」

そう、私とノルが会ったのは、夜の海だ。 あの日、あそこで出会わなければ、今頃きっと平穏な日々を過ごしていたのだろう。

「…チッ」
「し、舌打ち? 私悪くないよね」

告げるとノルはサラッと無視してコホンと咳払いをすると、


「それでも、あなたと生涯共にありたいのは本当ですよ」


と笑う。

「ま、また言ってみただけ?」

無駄にドキドキする前にそう確認すると、ノルは意地悪そうに微笑んで

「さぁ、どうでしょう?」

と告げるのだった。


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「はい、言ってみただけです」を言わせたかったんです