Θ 君への秘密 Θ





ゲームセンターで見覚えのある後姿を見つけた。 必死になってクレーンゲームに熱中する彼は、もしかしなくても烏羽くんだ。

「こんばんは、烏羽くん」
「……あぁ? 人が楽しんでる時に馴れ馴れしく声かけてくんのは……」

いつもよりトーンの低い声で彼は振り返った。そして私の姿をとらえると、一気に青ざめた。

「ね、姐さんっ。お、俺は姐さんの声も分からないなんて……」

そういってクレーンゲームのガラスにガゴンガゴンと頭を打ち付ける。

「あは…は。私は気にしてないから、別にいいよ」
「姐さんっ! アンタはなんて心が広いんスか!」

ぎゅっと両手で私の手を包み込んで嬉しそうに笑う。思わず私まで嬉しくなってしまう。

「…で、今日もまた猫ちゃん?」
「あ、そうッス。前回は……情けなかったんでリベンジを……」

私は前にも一度、ここで烏羽くんに会っていた。 そのときも烏羽くんは猫のぬいぐるみに夢中になっていて、結局一つも取れなかった。 初めは猫のぬいぐるみをとっていたことを恥かしく思っていたのか隠そうとしていて、 だから私も好きだよと告げると、パッと顔を輝かせて「じゃ、姐さんのために取ります」と張り切ったのだ。 いざとろうとすると財布の中身は空っぽで、烏羽くんはわざわざコンビにまでおろしに行った。 けれど、やっぱりなかなか取れない烏羽くんに私は全財産を使い果たす前にやめさせたのだ。

「今度こそ、姐さんの欲しいものを取ります」

そう意気込んで、彼はお金を入れた。



烏羽くんは前回より確実に上手くなっていて、何度か私の欲しいものを引っ掛けた。 それでも猫のぬいぐるみはアームの中におさまってはくれない。

「……あぁっ」
「…っ、クソッ」

二人が見守る中、猫のぬいぐるみはポロリと落ちて、 その衝撃で別のぬいぐるみがコロリと穴に落ちた。

「……なんか取れたみたいだよ」
「マジッすか」

烏羽くんはすぐさましゃがみこむとぬいぐるみを取り出した。けれど私には見せてくれない。

「……どうしたの? 烏羽くん」
「あ…いや……」

サッと背中に隠されては余計に気になって、私も意地になって手を伸ばす。

「ね、姐さんっ」
「見せて!」

うろたえる烏羽くんの隙をついてギュッと彼の背中のものを掴むと顔の前にもってくる。

「……あれ? これ、どこかでみたことが……」

それは小さなDr. デコポンのぬいぐるみだ。 ハッと気付いて自分の鞄をみると、同じものがぶら下がっていた。 烏羽くんと前にここで会って、そのあとに私も猫に挑戦してこっちが取れてしまったのだ。

「すんませんッ、姐さん。姐さんが既に持っているものを取るなんで、一生の不覚」
「でもこれ、自分で取ったものだから烏羽くんのも嬉しいよ?」

そう言っても烏羽くんは納得してくれない。 私は小さく溜息をつくと、鞄からDr. デコポンを外して烏羽くんに手渡す。

「姐さん?」
「私が取ったのは烏羽くんにあげるよ。だから、烏羽くんの取ったのを私の頂戴?」
「で…でも……」

私は烏羽くんに無理やり私のDr. デコポンを渡すと、今さっき取ってもらったぬいぐるみをかばんへとつける。

「い、いいんですか? 姐さん」
「いいもなにも、自分で取ったものより、烏羽くんがとってくれた方が私は嬉しいよ」

にっこりと笑うと烏羽くんはすごく嬉しそうに笑って、

「姐さんっ、一生ついていきやす!!」

と告げた。

「それに、なんかおそろいみたいでドキドキしない?」

いそいそと鞄につける烏羽くんに冗談めかして告げると、彼は真っ赤な顔で固まってしまった。 そんな彼につられるように私まで真っ赤な顔になってしまう。

「じょ、冗談のつもりだったんだけど……」
「そ、そーッすよね」
「うん、でも……」
「?」

このドキドキは嫌じゃない、という言葉は飲み込んだ。 もう少し私と烏羽くんの距離が近づくまで、この先は私だけの秘密だ。


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お金を下ろしにいったあとのイベントが見たかったなぁ