今日は 2月14日バレンタイン。風紀委員では毎年この時期は頭が痛くなる思いだ。 女の子のための一大イベントといってもいいバレンタイン。 そのためのチョコレートを「校則違反」の名のもとに没収しないとならないからだ。 去年までは「規則だからごめんねー」なんて言っていたのだけれど、 今年は彼女たちの気持ちが理解できてしまうために心苦しい。 それでも私が没収しなくても他の委員が没収してしまうわけで、 「放課後返してあげるから」と言って私は彼女たちの想いを奪うのだった。





Θ チョコレートの行方 Θ





紙袋いっぱいのチョコレート。もちろんその中には私のものも入っている。 自分だけチョコを没収されないのは良心が痛むからだ。

「失礼しまーす」

そう言って会議室の戸を開けると彼はいた。

「大量じゃないか西くん。首尾は上々だね」
「うぅ。私は良心が痛いです」

机の上には既にたくさんのチョコレートが積まれていた。

「……先輩」
「なんだね」
「どうしてチョコレートを没収しなくちゃならないんですか?」
「なぜって、不要物≠セからさ」

今時、「学校に不要物を持ち込んではいけません」なんて法則はどうかしている。 みんな必要だと思ったから持ってきたのに。

「……何か言いたそうだね、西くん」
「先輩も……、先輩もこのチョコレートは必要のないものだと思ってるんですか?」

真っ直ぐに尋ねる。

「そうだな」

それは肯定のようで私は胸が痛くなった。 先輩は私たちの気持ちを分かってくれるかもしれないと期待してしまっていたからだ。

「告白するのであれば今日でなくてもいいだろう。上手くいくカップルはいつ告白しても上手くいくものだ」
「それはそうですけど……。勇気が欲しいんです。後押しが」
「どうしても今日、この日に告白したいのであれば、朝相手の家に行くこともできただろう」
「家まで行くのはちょっと……」
「ふむ。ならば放課後に相手を誘って一緒にチョコを買いに行けばいい」
「…………」

答えられなくなった私に、沢登先輩は困ったように笑った。 それはまるで聞き分けのない子供の手を焼く母親のような姿だった。

「……じゃぁ、一つだけ」

私は俯いてしまった顔を上げ、縋るように口を開いた。

「……その中に、私が先輩に持ってきたチョコもあるんですけど……。
やっぱり……、やっぱり不要なものですか?」

最後の方は消え入りそうな声だった。まさかこんな形で告白することになるなんて思ってもいなかった。 先輩は一瞬だけ驚いたように目を丸め、それからいつものように不敵に笑って見せた。

「僕が西くんの想いを邪険にするように見えるのかい?」

そう言うと先輩は私の持ってきた紙袋の中から一発で私の持ってきたチョコを取り出した。 そしてそのまま開封すると口へと放り込む。

「せ、先輩!?」

驚く私をそのままに、先輩はあっという間にチョコを平らげてしまった。



「証拠を残さなければ問題ないだろう」
「そ、それってずるいですよ」

思わず声を上げた。

「なぜだい?」
「だ、だってほかの子は好きな人にあげれてないのに……」
「ふむ。ならば西くんは僕に食べて欲しくなかったと」
「ち、違いますよ。嬉しいです。嬉しいですけど……」
「風紀委員の特権。といっても納得しないようだね」
「しませんよ!」

好きな人に食べてもらえたのは嬉しいけれど、やっぱり私だけ特別なのは駄目だと思う。

「なら、この僕が我慢できなかったといったら納得してくれるかい?」
「へ?」
「僕が西くんを好きで好きでたまらなくて、早く返事したいから食べた」
「……そう……なんですか?」

特に今までそんな素振りを感じたことはなかったため、私は驚いたように先輩を見つめた。 けれど先輩は、ニタリと笑みを浮かべると、

「いや。ただ放課後に溶けたチョコを貰うぐらいなら今食べたほうがいいと思っただけだ」

なんて答えた。

「せ、先輩!」

怒ったように腕を振り上げると先輩はいつものように「ふはははは」と逃走した。 私はそれを追いかけながら、それでも、一発で私のチョコを見つけたようすから、 私が先輩を見てる以上に先輩も私を見ててくれてる……なんて思ってしまうのだった。



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