昼休みにぼんやりと窓の外を眺めていると、見知らぬ女の子と堤くんの姿が目に入った。
その時はただ二人の姿を見送っていただけなのに、放課後になって激しく後悔した。
Θ 愛を確かめる方法 Θ
「マジで? ユキ、その子って演劇部の子なの?」
掃除から戻ってくると、キヨちゃんが大騒ぎしてユキちゃんに話を聞いていた。
「なに? どうかしたの?」
「ちょっと聞いてよ、あかり。堤くんってば、演劇部の子に告白されたらしいのよ!」
「え……?」
「あの喋り方さえ我慢すればいい男だもんねー。うんうん」
キヨちゃんは興奮して一人でキャーキャー言っていた。
自体のまったく飲み込めない私に気付いたユキちゃんが、説明をしてくれた。
最近、演劇部の中で堤くんと仲のいい子がいること。
その子が昼休み、堤くんを呼び出したということ。
(じゃぁ、昼休みに見たあの子が……)
あの時の二人を思い出して、胸が苦しくなった。
なんでだろうって考えてもそんなのすぐに答えなんかでなくて。でも、
「あかり…ちゃん? そんな泣きそうな顔しないで?」
「え?」
ユキちゃんに指摘されて気付いた。私、堤くんが告白されたって聞いて、すっごく嫌だって思ってる。
「大丈夫。堤くん、この時間なら屋上にいると思うわ」
「ユキちゃん……」
それはユキちゃんの優しさだろう。
話したいことがあるなら、二人きりのときがいいと言ってくれている。
「ありがと、ユキちゃん。私、行ってくる」
行ってどうにかなるわけじゃないけど、教室でショックを受けているだけは嫌だった。
屋上には、いつもと変わらない堤くんがいた。
屋上の柵に寄りかかって空を見上げている。
「堤…くん」
おずおずと声をかけると空を見上げていた顔がゆっくりとおりてきた。
そして私の姿をとらえると、にっこりと笑って口を開く。
「あら、おねえさま。あたいに会いたくなっちゃった?」
勢いだけできたはいいけれど、何をどう話せばいいのだろう。
思ってることを口にしても、果たして伝わるのだろうか。
「どーした? 西村。百面相してんぞ」
そんな私にお構いなしで堤くんは笑った。
その笑顔が誰かのものになってしまうって思ったらすごく嫌で、私は俯きながらポツリと口を開いた。
「あの……ね、堤くん。……こんなこと言っても困ると思うけど……あのね」
堤くんは茶化さずに私の言葉に耳を傾ける。
「嫌だから……。私、こうして堤くんと話せなくなるの嫌だから」
「……いつでも話せるだろ? 現に今だって……」
「そうじゃなくて。堤くんが誰かの特別になっちゃうの、嫌だよ」
「あー…、あれか。昼休みの件できたのか……」
ようやく思い当たったように堤くんは声を漏らした。
「あのさ、西村。どんな噂が流れてるかしらないけど、俺、断ったから」
「……へ?」
「だから、好きですって言われたんだけど、断ったから」
「なん…で……」
顔を上げると苦笑する堤くんがいた。
「なんでって。じゃ、付き合えばよかったのか?」
「そうじゃない……けど、でも……」
チラッとしか見ていないけれど、綺麗な子だったように思う。
そんな子を振ってしまって良かったのだろうか。
「あのなー…、俺はこうして西村が噂を気にして俺のとこに来てくれて嬉しいって思ってるんだけど」
「……なん…で?」
さっきから聞き分けのない子供のようなことしか口に出来ない。
だって、そんな自惚れるような言葉を堤くんがくれるから。
「俺だって嫌なんだよ。俺の知らないヤツと西村が談笑してる姿見るの。だったら俺が一番近くにいたいんだよ」
「ど、どど、どうしよう!」
思わず自分のほっぺをぎゅーっとつねってみる。
「西村?」
「いひゃい……」
「そりゃ、思いっきりつねれば痛いだろうな」
「うん。夢じゃないよねっ。うわ、どうしよう
堤くんが告白を断っただけでも嬉しいのに、私の一番近くにいたいなんて告白まがいのことを言われたら嬉しくて死んでしまう。
「……とりあえず一人で確認してないで、俺とも夢じゃないって確認してよ」
「ん? 堤くんのほっぺを引っ張ればいいの?」
私の発言に堤くんはブハッと吹き出した。
「西村のそういうとこ嫌いじゃないけど、どーせなら甘いこと、してほしいかな」
そう言って首を捻る私の頬に堤くんはキスをするのだった。
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