Θ ハロウィンにご挨拶 Θ





今日はハロウィーンということもあり、鞄の中にはいつもよりたくさんのお菓子が詰まっていた。 教室ではいつものようにお菓子を食べているけれど、こういうイベントは特別だ。 ふみにもお菓子をもらおうと思ってたのに、ふみはさっさと学校に行ってしまったので朝から会えなかった。 いつもより少しだけ早く家を出た私は、教室へ寄らず真っ先にふみのクラスへと向かった。





「ふみー…」
「なんだよ、ねぇちゃん」

教室の後ろのドアから顔を覗かせると、ふみはすぐに気付いてくれた。 ドアのそばまでやってきたふみにパッと笑顔を向けると私は口を開いた。

「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞー」

やっぱりこれは言っておかなければならない。 目的達成でニコニコ顔の私に対し、ふみは盛大に溜息をついた。

「……いい年してなに言ってんだよ、ねぇちゃん」
「えー。いいじゃん。お菓子ちょうだいよー」

呆れ顔のふみはお菓子をくれる気はないようだ。 もちろん私もこのままオメオメと教室へは帰れない。

「うぅー、ケチ」
「誰がケチだ、誰が!」

そんなことを言い合っていると、

「朝からおねえさまに会えるなんて、ラッキー」

背後から声がした。振り返るとそこには堤くんがいた。 ふみは嫌そうに「ゲッ」ともらすと、

「あー…、良かったな、ねぇちゃん。そっちにお菓子でも何でももらってくれ」

それだけ言ってさっさと教室へと戻ってしまい、ポツンと私と堤くんだけが取り残されてしまった。

「なに? 西村。俺に用事?」
「うーん。堤くんならノッてくれそうだもんね」

ふみにお菓子をもらえなかったのは残念だけれど、きっと堤くんならお菓子をくれるだろう。 そう思いなおして私は両手を差し出すと口を開いた。

「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞー」

けれど帰ってきたのは予想外の返事だった。

「あら、どうぞ」

その言葉にぽかんと堤くんを見てしまう。

「だから。俺は西村にお菓子をやれないから、好きに悪戯してくれって言ってんの」
「えぇ!?」

ビックリして大声が出てしまった。 だって普通は悪戯されたくないからお菓子をくれるはずなのに、堤くんは悪戯してくれだなんて。

「……堤くんってもしかして……Мの人?」
「いやだよ、おまいさん。そうじゃなくて……」

ガクッとコケながら堤くんは口を開く。

「俺だってお菓子ぐらい持ってるの」
「じゃぁちょうだいよ」

両手を差し出すが堤くんはお菓子をくれなかった。

「だーめ。俺は西村に悪戯して欲しいの」
「……やっぱりそれってМの人だから……」

私の発言に堤くんはボリボリと頭をかいた。それから何の前触れもなく急に私に抱きついた。

「えっ、えぇ?!」

男の人にすっぽりと抱きしめられた経験のない私は、どうしていいかわからずされるがままだ。




「ねぇ、西村」
「な、なに……」

堤くんの声が、すぐ上から降ってきてドキドキしてしまう。

「西村が悪戯してくれないなら……俺が西村に悪戯するっての、どう?」

それはつまり、堤くんもお菓子が欲しいってことなのだろうか。 だから私にお菓子をくれなかったんだ。そう考えれば彼の行動全てに合点がいく。なんだ、そっか。

「堤くん。お菓子なら私の鞄の中に……」
「そうじゃなくて……」

堤くんは普段からおちゃらけているから、本心があまり分からない。 今私に抱きついてるのも理由があるはずなのに、それがお菓子ではないとするとなんだろう。 もっとストレートに言ってくれればいいのに、なんて思っていたらものすごくストレートな言葉がふってきた。

「お菓子より、西村が欲しいの」
「えぇ?!」

ガバッと顔を上げると真っ赤な顔の堤くんがいて更に驚いた。

「あれ…なんで……赤い…の?」
「あのさー…、俺、たぶん今、西村に告白したと思うんだけど」

その発言にますます驚いてしまう。

「ちょっ…い、いい、いつ!」

いくら私がボケボケしていても、告白ぐらいはちゃんとわかる……つもりだ。

「あーぁ…、フラれちゃったのかしらあたい……」

抱きしめた腕を解いてオロローンと寂しそうに笑った堤くんに、私は慌てて口を開いた。

「ち、違う違う。そんなことあるわけないもん。ただ気付けなかったからもう一回聞きたかっただけで」
「え?」
「だからその……あっ!」

そこまで言って私の顔もみるみるうちに真っ赤になってしまった。 これじゃぁちゃんとした告白を聞く前に、返事をしてしまったようなものだ。 どうしようって思ったときには廊下の隅に土師先生の姿を見つけ、この場を逃げる口実にしようと思った。

「わ、私ホームルームはじまっちゃうから」
「西村っ」

逃げ出そうとした私の手は、しっかりと堤くんに掴まれていた。

「ごめん。えっと……その……ま、またあとで」

それだけ言うと堤くんはにっこりと笑って手を離した。

ただお菓子が欲しくてふみの教室へ行ったというのに、 私はとんでもないものを手に入れてしまったのかもしれない。





その日の放課後、ふみが泣きながら「考え直してくれよ、ねぇちゃん」と言ってきたけれど、 私と堤くんは仲良く手を繋いで「それは無理」と答えた。 だってあの時、ふみは確かに「お菓子でも何でももらってくれ」と言ったのだから。 私が堤くん自身を貰っても、なんら問題はないのだ。



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日記ログです。堤くんいっぱい書きたい