Θ 触れた温もりの先 Θ
生徒会長の大和くんは、どうあっても共学に賛成してはくれないようで、
同じクラスメートでもあるのにあんなにキッパリと宣戦布告されては、気が重い。
「大和くん。ここのとこちょっと教えて欲しいんだけど……」
「なんですか。授業についていけないのであれば前の学校に戻ったらどうです?」
ことあるごとに前の学校に戻れと言う大和くん。けれど、
「……で? どの部分が分からないんです?」
眼鏡をかけ直しながら彼が告げたのは友好的な言葉で、
「……教えてくれるんだ」
思わずあたしはポカンと口を開けて尋ねてしまった。
「貴方は、教わる意欲もないのに僕に質問したんですか?」
「あ…いや…ごめん。だって大和くんあたしのこと敵対してるから教えてくれないもんだとばっかり……」
「僕は困っている人間を放っておく人間ではないので」
「その勢いで共学も賛成してくれるといいのに」
あははと笑いながら告げると、彼は小さな溜息をついた。
「それはまったくの別問題であると、今ここでお話しても構いませんよ?」
「い、いえ。結構です」
大和くんの話は、クドイ上に長くて、
この学園に通うようになってから二週間経った今では、その威力は痛いほどに身にしみていた。
「あ。なーんだ、こーすれば良かったんだ」
クラスメートのほとんどが下校した教室で、ようやくあたしはポロリとシャーペンを落とした。
「では僕は生徒会があるのでこれで」
「あ。待って。まだ時間あるでしょ? ジュース奢るよ」
立ち上がりかけた大和くんの手を慌てて掴むと、ビクッと彼が手を引っ込めた。
「……え?」
思わず大和くんの顔を見上げると、真っ赤な顔をした大和くんがいた。
「……えーと……その…………えい」
「!」
いまいち理解できなかったあたしは、再び大和くんへと手を伸ばした。
何度は逃がさないように、両手でしっかりと握り締めている。
「……顔、なんで赤いの?」
「相崎くん。……そういう場合は見なかったことにするのが大人の女性ですよ」
そうは言ってもあの大和くんがあたしに触られたぐらいで真っ赤な顔をするのが可笑しかった。
もしかして、女の子に慣れていないのかな……なんて思った。
「誤解のないように言っておきますが……」
大和くんはあたしの考えを読んだかのようなタイミングで口を開いた。
「僕は別に女性に手を握られたから顔を赤らめたわけではないですからね」
「え? それってどういう意味?」
「女性に慣れていないことはないんです。うちには姉がいますから」
「あ。そっか。……だったらなんで……」
そう言いかけたあたしに、大和くんは少し悪戯っぽく微笑んで口を開いた。
「貴方だから。貴方が掴んだから、思わず反応してしまったようです」
「……それって」
「おや。顔が真っ赤ですよ」
「そ、そんなことない」
大和くんがこんな意地悪な人だったなんて知らなかった。
思わず手を離して、赤くなってしまって頬を隠すように覆った。
「そんな顔されたら……期待してしまいますよ」
「え?」
「貴方は雅哉くんの許婚だっていうのに……」
「……あ」
やわらかく微笑んだ大和くんが、そっとあたしの手ごと頬を包むものだから、
キスされるんじゃないかと思って思わずドキッとしてしまった。
あたしと大和くんは敵同士なのに、今更そんな顔はずるい。
「いいものが見れましたから、ジュースは無用です」
あたしが呆けている間に大和くんはそう告げて教室を出て行った。
一人取り残されたあたしは、ようやく覚えた公式なんて頭からスッカリ抜けていて、
ただ大和くんの優しい笑みに支配されていた。
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