Θ
雷が落ちたら Θ
「雨、やみませんね」
ザーッと降り注ぐ雨を眺めながら、彼女はポツリと呟いた。
次の村まではまだ暫く距離があり、野宿を続けながら旅をしていた。
ポツポツと雨が降り始め、近くの木で雨宿りを始めた瞬間、
ザーッと雨足が強まったのだ。
「これでは暫く動けませんね」
「オレは大丈夫だが……」
その先の言葉は呑みこんだ。
慣れない旅の、それも野宿続きだったのだ。
彼女にこの雨の中、歩けというのは酷だろう。
「……すみません、私のせいで」
言葉は呑みこんだものの、喉まで出かかった言葉を彼女は読みとったのだろう。
「いや……」
こんな時、気のきいた言葉も言えないオレは口を閉ざした。
沈黙が続き、ザーッと降り注ぐ雨の音だけが響く。
「雷が鳴ったらどうしましょう」
ゴロゴロと不快な音を立て始めた空に、彼女はまた呟いた。
「君はそんなものが怖いのか?」
「こ、小次郎には、怖いものがないのですか?」
思わず口をついて出た言葉だったのだろう。
返答があったことに驚きつつ、気恥かしそうにオレに問いかけた。
「あぁ、ないが」
サラリと答えた。
「そう……ですか」
彼女はどこか不服そうに口を尖らせそう答え、それきりまた空を見上げた。
「こりゃ、落ちるのは時間の問題か」
先ほどより空が大きく鳴り、今度はオレが呟いた。
「な、なにを言うのです!」
どこかうわずった声で返す彼女が何となく可笑しくて、思わず小さく笑う。
「わ、笑わなくても良いではありま……ッ!」
そう言って怒った彼女がオレを睨みつけた瞬間、ビカッと空が光った。
続けてゴロゴロッと音が鳴り、ズドンという衝撃が走った。
「キャァァァッ!!!」
「おわっ」
雷に驚いた彼女の悲鳴と、その彼女に突然抱きつかれて驚いたオレの言葉が重なる。
「す、すみません」
雷に驚いた彼女が、オレから離れようとした瞬間また空が光り、
「ひゃぁぁぁっ!」
再びガシッとしがみ付かれた。
「……ほ、本当に……、すみま…せん」
よく見れば、彼女の肩は小さく震えていた。
そっと背を撫でてやると肩から力が抜けるのがわかったから、
彼女が落ち着くまで暫く撫でてやることにした。
「……オレは君が怖い」
無防備に抱きつく彼女へとポツリと呟いた本心は、
再び落ちた雷の音に驚いた悲鳴にかき消えた。
» Back
雷が落ちて、姫をただの女の子と自覚して、恋に落ちた。そんな話。