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幸せ大安売り Θ
何がお気に召したのか、彼女はオレの作ったみそ汁を口に運ぶと、
「んー、美味しい」と笑う。
「仮にも君は一国の姫だろう」
「……小次郎。仮にも何も、姫なのです」
そう、こんな森の中で野宿をしているが、彼女はれっきとした姫だ。
そしてオレはその護衛。
「そのお姫様が、ただ適当に作ったみそ汁で幸せそうな顔をするんじゃない」
城ではもっといいものを食べていたはずだ。
ここ数日の野宿での一番のごちそうは、三日前に釣った魚だ。
あとはずっとイモがゴロゴロと入ったみそ汁だ。
「小次郎の作るみそ汁ですよ?」
「……意味が分からない」
そう答えてみそ汁を口に運ぶ。
特別うまいわけでもない、長年親しんだ味だ。
「小次郎の作るみそ汁はとても美味しいんです。だから、私は幸せです」
にっこりと、相手を勘違いさせるような反則的な笑みに顔が赤くなるのを自覚しつつ、
あえてツンとした態度で答える。
「君の幸せは随分手軽なのだな」
この姫は、どんな相手でも素直に笑って見せるから、
その笑顔は自分だけに向けられているんだと、錯覚してしまいそうになる。
箱入りだから少々素直すぎるのは大目に見ても、これでは悪い虫がすぐについてしまいそうだ。
そんなオレの心配をよそに、彼女は小首を傾げながら
「小次郎が笑ってくれればもっと簡単に幸せな気持ちになりますよ」
と微笑むものだから、オレは飲もうとしたみそ汁を思い切り吹いてしまった。
「……、勘違いしてしまうからそんなに自分を安売りしない方がいいと思う」
コホンと咳払いしてそう告げると、
「安売りした覚えはないのですが?」
と彼女は首を傾げ、再びみそ汁を口に運んで幸せそうな顔で笑うから、
明日はもっと美味しいみそ汁を作ってやろうなんて、馬鹿なことを考えてしまった。
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胃袋わしづかみされたのは寧ろ私