戸高さんにもらった新しい合鍵で玄関の扉を開けると、私は買ってきた荷物をドサリと置いた。

「ふぅ。ちょっと買いすぎちゃったかな?」

夕飯の食材とは別に、私は食材を買っていたのだ。

「戸高さんはかつ丼が食べたいって言ってたから、パパッと作って、そのあとにこっちかな……」

頭の中で手順を確認すると、私は腕まくりしてキッチンへと荷物を運んだ。



キッチンで鼻歌交じりに作業をしていると、いつもと同じ時間ピッチリに玄関のインターフォンが鳴った。 私が玄関を開けるのが嬉しいと言っていたので、急いで玄関まで出迎えると、

「おかえりなさい、戸高さん」

と言って玄関の扉を開けた。 そこにはいつも通りに嬉しそうな笑顔を見せた戸高さんがいた。

「ただいま!」

鞄を受け取ると、そのままリビングへと向かった。 ソファーに腰掛けた戸高さんに夕飯を運ぶと、私はそのままキッチンへと戻った。

「あれ? 麻衣は食べないの?」

カウンター越しに戸高さんが私に声をかけていた。

「あ、はい。城崎さんたちにお礼をしようと思いまして、お弁当を作ってるんで、先に食べてて下さい」
「え?!」

その言葉に、戸高さんは勢いよく立ちあがった。

「弁当って、理央ちゃんに?!」
「はい。だって、私たちの恋のキューピットじゃないですか」

城崎さんたちが動いてくれなかったら、私たちはすれ違ったままだったのだ。お礼をすることに何の不思議もない。

「この間マンションの下で会ったので、お礼がしたいことを話したら手料理がいいって言ってたので……」
「はぁ?! 理央ちゃんそんなこと言ったの?」

どうやら城崎さんから戸高さんへは話が伝わっていなかったようだ。

「はい、なので、城崎さんたちに出勤前に食べてもらえるようお弁当にしようと思いまして……」
「たちって、聖夜ちゃんにも?!」

そう言って戸高さんはカウンター越しに私の作っていたお弁当を見つけると、

「ダメッ。ダメダメダメダメッ」

と言って、夕飯を食べていた箸でお弁当をつついた。

「ちょっと、何してるんですか」

行儀の悪い戸高さんの手をペチンと叩くと、

「それはこっちのセリフ。狼たちの中に弁当持った羊ちゃんが飛び込んだら弁当ごと食われちゃうでしょ?」

戸高さんは意味不明なことを口にした。

「大丈夫ですよ」

にっこり笑って安心させても、

「ダメダメ。理央ちゃん、君の巫女さん姿見て【萌えー!!】って残念なぐらい叫んでたからマジやばいって」

そう言って戸高さんは再びお弁当を箸でつまんだ。

「あぁもう。これじゃあ渡せないじゃないですか」

怒って頬を膨らませると、戸高さんはニコニコと笑って私の頬を指でつついた。

「怒った顔も、かっわいい〜」
「もう、誤魔化されません」
「とにかく。二人にとっての恋のキューピッドなら、お礼も二人でしなきゃだろ?」

頬をつついていた手を止めると、戸高さんはウインクした。 言われてみれば、二人のことなのに私だけがお礼をするのも変だ。

「そう……ですね」

戸高さんの言葉に納得したところへ

「というわけだから、麻衣もリビング来て一緒にご飯たーべよ?」

と言って彼は手を引いた。 なんだか戸高さんにとって都合のいいように流されているような気がしているけれど、

「やっぱり、麻衣と一緒に食べるのが一番だよね」

戸高さんが嬉しそうに笑うから、

「一緒に食べますから、ちゃんとお礼考えて下さいね」

これでいいのかなと思ってしまうのだった。





後日、戸高さんたっての希望で二人の写真入りワイングラスをそれぞれ贈ったのだけれど、
その場で割られ、結局お弁当を作ることになったのは別の話だ。



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戸高さん可愛くて好き(*ノノ)