「瑞谷くん、これ、先生から。次の時間自習だから配っておいてって」
そう私が声をかけると、瑞谷くんは驚いたように目を丸め、
「俺に言ってる?」
と訊ねた。
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君を見つける方法 Θ
クラスでは空気のように存在感がない瑞谷くん。
一緒に談笑していても、彼が一言発するだけで「いたの?」なんて驚かれるのはいつものパターンで、
「最初からいただろ〜」と彼が困ったように答えるのがお決まりだった。
そんな彼に声をかけたものだから、驚いてしまったようだ。
「そんなに驚くことかな?」
クラスメートに教室で声をかけることなんて、別に大したことではない。そう思いながら答えると、
「いやいや、俺、担任の先生にもしょっちゅう欠席扱いにされるんだよ」
あははと笑ってそんなことを告げながら、
「だから、真奈部さんはすごいね」
私をまっすぐに見つめて微笑むものだから、
大それたことをしたようで恥ずかしくなってしまった。
「そういえば俺、真奈部さんにはしょっちゅう見つけられてる気がする」
思い出したように口を開いた瑞谷くんに、私は「そうだね」と頷いて答えた。
同じクラスになってから、私が瑞谷くんを探し回った経験はない。
寧ろ、「あいつ探してくんない?」といろんな人に頼まれた記憶がたくさんあった。
「自分で言うのもあれだけどさ、四月の鬼ごっこも立ってるだけなのに鬼の人にスルーされたんだよ?」
毎年行っている新入生との親睦イベント。
今年は学校全体を使って鬼ごっこをしたのだ。
全クラスの代表が入り乱れていたのに、誰一人瑞谷くんの存在に気がつかなかった。
「クラスメートだから……かな?」
「それなら他の人にも見つかってもいいのに。なんかコツでもあるの? だったらみんなに伝授してやってよ」
必死な瑞谷くんをみていたら、何とかしてあげたくなったけれど、特別なことなどしていない。
「コツもなにも、別に普通だよ。私が瑞谷くんを見つけられるのは、いつも見てるからだもん」
私の言葉に彼は一瞬目を丸め、
「ち、注意深くみるってことかな?」
そう解釈した。それが面白くなくて
「違うよ。瑞谷くんが気になるから、目で追ってるんだよ」
すねたように告げれば、彼は己の存在を主張するように真っ赤になった。
「たぶん私だけしか使えないと思うけど、それでもみんなに伝授する?」
そう訊ねれば、
「俺、誰にも存在が気づかれなくても、真奈部さんにだけ気づいてもらえれば、それでいいや」
恥ずかしそうにそんな言葉を口にするものだから、私は満足げに笑うのだった。
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影の薄すぎる彼が好きです。