公瑾さんが琵琶の調弦を始めると、基本的に私の相手はしてくれない。
初めは調弦自体が見慣れない作業だったから退屈しなかったのだけれど、
今は構ってもらえないことが寂しくて仕方ない。
Θ
二人の旋律 Θ
「そういえば、もうすぐ仲謀帰ってきますね」
興味のありそうな話題を口にしても、
「そうですね」
弦を弾きながら彼は答えた。
最初は私が話しかければちゃんと答えてくれると思っていたのに、
いつも返事は同じだと気づいてからは面白くない。
「明日は雨みたいですね」
「そうですね」
「玄徳軍の皆さんは元気でしょうか」
「そうですね」
関係のない話題を口にしても、帰ってくる言葉は同じ。完全に話を聞いていないのだ。
なんだか私一人必死に会話しようとしてバカみたいだ。
( ……でも、今なら何でも肯定してくれるってことだよね )
そう思ったら、ちょっと悪戯してみようと思った。
私のことを好きかと尋ね、肯定したら「引っかかった」と笑ってやろうと思ったのだ。
普段澄ましている公瑾さんが、少しでも狼狽すれば面白いと思ったのだ。
「公瑾さんは私が大好きなんですよね」
今にも笑いそうになるのをこらえながら尋ねれば、
「そうですね」
ひどくあっさりと返されて、思わず視線を公瑾さんへと向けてしまった。
「……どうかしましたか?」
きょとんとしたその顔に、ああなんだと理解した。
自分が今、何に対して返事したのか分からないほどこの人は私の話を聞いていなかったのだ。
つまり、私はその程度の認識でしかないのだ。
「ははっ。やだなぁ公瑾さん。空返事ばかりしてるから引っかかったんですよ」
泣きそうな顔をぐっと堪えて、悪戯だったと精一杯のアピールをした。
それなのに、
「引っかかるも何も。事実でしょう」
何を今更と、そんなふうに呆れながら告げられるものだから、
私の顔は段々と羞恥で赤に染まっていく。
「私はあなたが大好きですよ。あなたは違うんですか?」
そんな言葉を続けられ、私はこのまま息の根を止められてしまうんじゃないかと思った。
なんとか言い返そうとするものの、金魚のように口をパクパクさせることしかできない。
「ふふっ。私に悪戯をしようなんて、あなたには百年早いですよ」
「!!」
その言葉はつまり、私がしようとしてたことが最初からバレていたということだった。
「あなたはすぐ顔に出るんですよ」
公瑾さんはそう言ってクスクスと笑うと、
「まったく。誰のために調弦していたと思っているのですか」
そう言って弦を弾くと、琵琶を構え私を見つめた。
「宴以外で私に弾かせるなんて、あなた以外いないんですから」
それはつまり、私だけが特別だと言っているようなもので、
更に真っ赤に染まる私を彼は楽しそうに見つめていた。
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ゲームでは大人気なかったのでせめて文章では!!(笑)