喧嘩した覚えはない。 昨日は失敗もせずにちゃんと仕事をこなした。 それなのに、今朝会ったら公瑾さんは機嫌が悪そうで、 私が声をかけても無視して歩いていってしまった。





Θ 優しい嫉妬 Θ





「あ、の……。何か怒ってますか?」

一日の仕事を終え、部屋に戻る前に声をかけた。 仕事中も何度も声をかけたのだけれど無視され続けて、これで最後にしようと思ったのだ。

「どうしてそう思うのですか?」

意外にも、今回はちゃんと答えてくれた。

「えと、朝お会いしたときも先に行ってしまうし……」
「聞こえなかったんです」
「し、仕事中だって何度も声をかけました」
「勤務中は私語を慎むべきです」

そう言われてしまえば勘違いとも言えなくもない。 けれど、ピリピリとしたこの空気は、間違いなく公瑾さんのせいなのだ。

「い、至らない点があるなら直します。だから、……無視とかそういうのは嫌です」

自分の存在が無いものとされるのは嫌だった。 確かに私はこの世界の人間ではないけれど、ここで生きると決めた以上、この世界の人間なのだ。

「昨日、何を言ったか覚えてますか?」
「……昨日、ですか?」

仕事中は普通だった。 だからきっと、昨日帰る間際に、私は何か失態を犯したに違いない。

「あ。師匠からもらった手紙の話をしました」

仕事を終えて帰ろうとしたとき、公瑾さんに「機嫌がいいですね」と声をかけられ、 師匠から手紙をもらった話をしたのだ。 そこには玄徳軍のみんなのことも書かれていて、懐かしさでいっぱいになったのだ。

「みんな元気かなぁ……」
「…………」

そういえば、あの時から様子が変だったかもしれない。 「あの」と声をかけて公瑾さんへと視線を向ければ、ムスッと彼は機嫌悪そうにしていた。

「…………手紙をもらったから怒ってるんですか?」
「別に、師と連絡を取り合っているのは問題ありません」
「じゃぁ……」

残る可能性は一つしかない。

「玄徳軍のことを考えたから、だから機嫌が悪かったんですか?」

単刀直入に尋ねれば、彼は「いけませんか?」と今度は開き直って

「あなたが私以外のことを考えた分、今日一日ずっと私のことを考えてもらっていたまでです」

そんな恥ずかしいことまで告げられてしまった。

「わ、私は本気で嫌われたんじゃないかって心配したのに……」
「何を馬鹿な。そんなこと、あるはずが無いでしょう」

私の精一杯の反論も、ピシャリと公瑾さんに言い返されてしまった。 何故か怒られた子供のような気持ちになって俯いた私に、

「ですが、少しやりすぎましたね」

と告げながら公瑾さんは私の頭を優しく撫でた。

( 玄徳さんみたいだって言ったら、きっとまたややこしくなるんだろうな… )

そんなことを考えながらだらしなく笑う私を、 公瑾さんが「気色悪い顔ですね」と言うものだから、 うっかり「玄徳さんはそんなこと言わないのに」なんて言ってしまって、 私は次の日も公瑾さんに無視されるという地味な仕返しを味わうことになるのだった。



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ゲーム中、玄徳さんに嫉妬しすぎで可愛かったです