「花ー?」
「いません!」
「いませんってお前なぁ……」
「いませんったらいません」

部屋に立てこもって数刻。 我ながら子供っぽいと思うけれど、それでも許せないものは許せないのだ。





Θ エンジェルスキンコーラル Θ





ことの発端は昼の出来事。 玄徳さんと一緒にご飯を食べようと部屋まで誘いに行ったら、 「用事があるから」とやんわりと断られたのだ。
そこまではまだいい。 けれど、彼が尚香さんと一緒にアクセサリーを見ていたと芙蓉姫に聞いて、 裏切られた気分でいっぱいになったのだ。



私がそんなふうに感じていることなど知らずに夕刻戻ってきた玄徳さんは私の部屋を訪ね、 私は子供のように居留守を使った。

「花、何かあったのか?」
「ご自分の胸に聞いたらどうですか!」
「うーん、俺にはまったく思い当たらないだが」
( それって悪いって思ってないってことじゃん! )

ショックだった。 尚香さんと結婚すると聞かされたときと同じぐらい、ショックだった。

「……っ、わ、私のことキライになったんですか?」

思わず尋ねた言葉に、ガラッと部屋の戸が勢いよく開かれた。

「なんでそういう話に……」
「だって、今日、尚香さんと一緒だったんですよね」

その言葉に彼は唐突に笑い出した。 私は「これで終わりにしよう」と言われるのを覚悟して浮気を突きつけたというのに、

「な、なんで笑うんですか! こっちは真剣です!」

私の言葉に玄徳さんは「すまん」と言いながらも、何故だか嬉しそうにニコニコしている。

「な、なんですか」

何を言われるのかと身構えた私に、

「嬉しくて」

なんて言葉が変えてくるものだから「は?」と私は間の抜けた返事をするしかない。



ようやく笑いが収まった玄徳さんを問い詰めると、 尚香さんはあの一件以来、時々こちらにやってきては鍛錬をつけてもらっていたらしい。 そのお礼に、今日は買い物に付き合ってくれただけとのことだった。

「それなら私も誘ってくれたって良かったのに……」

口を尖らせると、

「花を驚かせたかったんだ」

と言って玄徳さんが指輪を差し出してくれた。

「わっ。どうしたんですか? すごくきれい……」
「花に似合いそうな石を、尚香殿に見立ててもらったんだ」
「今の気持ちをそのまま表せるものを送りたいって言ったらこれがいいって」

その言葉に真っ先に浮かんだのは石言葉だ。この国にもそれに似たものがあるのだろう。 淡いピンクの石にはどんな意味があるのだろうか。 チラリと玄徳さんを見上げれば、彼は私に指輪をはめながら

「変わらぬ思い。それがこの石の意味だ」

と教えてくれた。
私がつまらない嫉妬を妬いていた間も、 玄徳さんはこうしてちゃんと私を思っててくれて、それがすごく嬉しかった。
こんなにたくさんの気持ちをどうやって返していけば良いのか私には分からないけれど、 次のお給金で私らも玄徳さんに同じ石を送れたら素敵だなと思った。
だって私のこの気持ちも、ずっとずっと変わらないから。


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最初のやり取りが書きたかったがためにこんな話に。