生まれて初めての告白は、ボロボロだった。 涙で顔はぐちゃぐちゃだったし、言いたかったことの半分も伝えられなかった。 だからいつかは改めて伝えようと思っていたのに、 いざ本人を目の前に気持ちを口にしようとすると、うまく言葉が出ないのだった。





Θ 告白 Θ





( そういえば、ドア越しだったらちゃんと会話できたんだっけ )

以前、夜食を作った時のことを思い出した。 あの時はいろいろあって、まともに玄徳さんの顔が見れなかった。 けれど扉一枚隔てただけで、私は玄徳さんと普通に喋れたのだ。

( あれなら、できるかも! )

思い立ったらいてもたってもいられなくて、私は玄徳さんの部屋に向かった。




部屋からは明かりが漏れていて、きっとまだ仕事をしているんだと思った。 そんな中、自分の用事を押しつけるのは申し訳なかったけれど、 ここまで来たら女は度胸。言うなら今しかない!

「玄徳さん、花です」

戸に片手を添えて、声をかけた。

「あの、そのまま聞いて下さい」

玄徳さんが戸を開ける前に、私は先回りしてそう告げた。 少し緊張するけど、顔が見えないおかげか頭の中はわりと落ち着いていた。 大きな深呼吸を一度して、

「私、玄徳さんが好きです」

正直な気持ちを口にした。 いざ口にしてしまうとなんであんなに緊張していたのか分からないほどスッキリしていた。 そのあとはもうスルスルと言葉が続いた。

「大きな手で撫でられるのも好きだし、ぎゅって抱きしめてもらうのも好きです」

この世界にきてから、いつも傍に玄徳さんがいた。

「笑顔を見ると私まで笑顔になるし、いつまでもそばにいたいって思ったんです」

気付けば誰よりも大切になっていて、 私は元の世界に帰る事を諦めるほど傍にいたいと思うようになっていた。

「あの時の告白はぐちゃぐちゃで、いつかちゃんと伝えなきゃって思ってて……」

そこまで口にした瞬間、急に後ろから抱きしめられた。 突然のことにパニックになりそうな私の耳に、

「……花」

と玄徳さんの声が届いて一気に顔が赤くなってしまった。

「えぇっ?! へ、部屋にいたんじゃないんですか?」

そう訪ねた私に、

「いや。書簡を雲長に届けて戻ったら部屋の前に花がいて……」
「ず、ずっと見ていたんですか?」

本人に気持ちを伝えるためにここに来たのだから、聞いている分には問題はない。 そうなんだけれど、見られていたのは大問題だ。

「あんな顔、ほかの奴に見られたらどうするつもりだったんだ」

そんなことを言われても、私にはその顔なんて見えないんだからどうしようもない。

「玄徳さんのことを考えたらあんな顔になっちゃうんです」

拗ねたようにそう告げれば、抱きしめる腕が強くなっていっそうドキドキしてきた。

「さっきの、俺には直接言ってくれないのか?」

尋ねる声はほんの少しだけ弱くて、なんだか無性に愛おしく思った。 この人にちゃんと気持ちを伝えたいと、そう思ったのだ。



「……き、です」



漏れた言葉は掠れて声になっていなかった。それなのに、

「……俺も、花が好きだ」

耳元で聞こえた言葉にほわんと心が温かくなって、 玄徳さんもこんな気持ちになったのかなって思ったら、 次こそ勇気を出して直接伝えようと思った。



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ドア越しのあのイベントがたまりません(*ノノ)