最近、仲謀がよく私を睨んでいる。
視線を感じて顔を上げると、怖い顔をしてコチラを見ているのだ。
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愛情表現 Θ
「公瑾さん、私、何かしちゃいましたか?」
こっそりと公瑾さんに尋ねれば、
「あなたが何かしでかすのなんて、いつものことでしょう」
彼はにっこりと笑って答えた。
もしその言葉が事実なら、いい加減仲謀だって頭にきているに違いない。
「あ、謝った方がいいですよね」
いつだって不機嫌な仲謀が怒る姿なんて、想像するだけでも恐ろしい。
「ああでも話しかけたらそれこそ怒りそうだなぁ……」
「ここでぐじぐじとしていても仕方の無いことですよ」
「それはそうなんですけど……!!」
誰だって怒られるとわかってその当人に話しかけに行くのは勇気のいることだ。
思わず公瑾さんの服を掴んでああでもない、こうでもないと喚いていると、
「おぃ!」
と仲謀の声。
くるりと首だけ動かして視線を向ければ、どこか機嫌の悪そうな仲謀がすぐ近くにいた。
「ちょっと来い」
「へ?」
「いいから来い」
有無を言わさないオーラに怯えていると、
「早速チャンス到来ですね」
にっこりと、今まで見たことも無いような笑顔を浮かべる公瑾さんがいた。
それがまた余計に怖くて私はブルブルと頭を振った。
「俺様が呼んでるんだから、さっさと来い!」
なのに仲謀は我慢の限界なのか、私の腕をガシッと掴んで引きずるように歩き出した。
「仲謀」
「…………」
「ねぇってば」
「…………」
いくら話しかけても歩みが止まることは無くて、
私だって訳も分からずこんなふうに連れ回されては不安で泣きたくなってくる。
過去に戻って少し仲良くなったと思い始めていた。
それなのに、出会った頃のように最近は少し素っ気無くて、睨まれるようになってしまった。
私はもっと仲良くなりたいのに、仲謀が全然分からない。
「もう!! なんなの」
無理やり腕を振り払って、仲謀の手から逃れた。
振り返った彼は相変わらずの怖い顔で私を睨んでいる。
「い、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
怖かったけど、それを認めるのもなんだか悔しくて虚勢を張って口を開くと、
「お前見てるとイライラする」
なんて言われてしまった。
その言葉はとてもショックで、仲謀の顔を真っ直ぐに見れなくなってしまう。
「勝手にビクビクと怯えやがって……」
「そ、それは仲謀がいつも睨んでるからで……」
「はぁ?! 誰が睨んでんだよ、馬鹿ッ」
私の言葉に仲謀はいっそう声を荒げて口を開いた。
「あれは睨んでんじゃなくて、見つめてんだよ」
「…………は?」
信じられない言葉が聞こえたような気がして、ポカンと口を開けてしまった。
だって今、仲謀が見つめてたって……それって私のことだよね。
「なのにテメーは公瑾にベッタリで……」
ブチブチと続いた愚痴のような言葉に、ああなるほどと私は理解した。
ずっと仲謀に睨まれていると思っていた。
そのたびに公瑾さんに相談し、彼も否定しなかったから何かしでかしてしまったと思い込んでいた。
公瑾さんに話すときは仲謀に聞かれないように小声だったし、
そのせいで、仲が良く見えたのだろう。
「テメー、なにニヤニヤしてんだ」
「してないよ」
タネが分かってしまえば、仲謀が怖いなんて思わなくなっていた。
それどころか、とても可愛すぎるとさえ思えてきた。
「俺様のこと馬鹿にしてんだろ。くそ、カッコ悪い」
ニヤけ続ける私に背中を見せて、仲謀はまた文句を口にしていたけれど、
私を見つめたり公瑾さんに嫉妬するその感情の名前を教えたらその口はすぐに止まるだろう。
そして一気に真っ赤な顔になって、「絶対違う!」なんて大声で言うに決まってる。
そんな姿を想像したらまた可笑しくなってきて、ニヤつく顔を隠さずにいたら
「ほんとイラつく」と、また仲謀に怒られしまった。
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仲謀を見ていると私はニヨニヨします