「林檎のおすそ分けだよー」

と、二人が部屋に来てくれたのは数分前。 林檎をそのままかじろうとしていた二人に、私は皮を剥いてあげることにした。 実は林檎の皮むきは得意で、一度も切らずに皮を繋げたまま剥くことが自慢だったりする。 そんな様子を二人は初めてみたのか、「すごい」「すごい」と褒めてくれて、私も調子に乗って何個も剥いた。





Θ 林檎色に溺れて Θ





「何してんだ、うるせぇな」

と仲謀が不機嫌そうな顔で私の部屋にやってきたのだ。 とりあえず皮むきはここまでにして、剥いたりんごを食べやすいように切り分けて二人に渡す。 二人が林檎を食べるのに熱中している間に、

「仲謀も食べる?」

と私は問いかけた。 仲謀が私の誘いを断ることはないのだけれど、機嫌が悪そうだったので一応確認だ。

「あぁ」

彼は不機嫌ですというオーラを包み隠さずズカズカと二人の前を横切り、 空いてるベッドにドカッと腰を下ろした。 そしてそのまま足を組むと、膝の上に頬杖をついて私の手元を眺めた。

( 普通に切ったんじゃ、面白くないな )

仲謀の分も二人と同じように切ったのでは、彼の機嫌は直らないような気がした。 だから、彼が私にとって特別なんだということを、表現することにした。



先ほどはクルクルと綺麗に皮を繋げたまま剥いていたけれど、今は先に八等分にしていた。 大喬さんと小喬さんもそれに気付いたのか、林檎にかじりながら私の手先を眺め、

「わぁ」
「かわいい」

それぞれ声をあげた。

「はい、出来たよ」

皿にのっているのは、林檎でできたウサギだった。 それを見て、仲謀がムッと眉をひそめたのがわかった。

「花ちゃん。わたしもうさちゃんりんごほしい」
「わたしもー」

二人にせがまれ心がぐらついたけれど、

「ごめんね。これは仲謀の為だけに作ったものだから二人には作ってあげられないんだ」

と私は告げた。それを聞いた途端、

「か、可愛いこと言うなっていつも言ってんだろ」

口調はいつものままプリプリしていたけれど、 どこか機嫌を良くした仲謀はやっと林檎を口に運んでくれた。

「仲謀のくせにずるい!」
「お前らは公瑾にイヌでもネコでも切ってもらえばいいだろ」

二人に奪われないように皿を頭上に掲げながらそんなことを仲謀が口にすれば、

「うん。そうする」
「わたし、ネコがいいー」

二人はキャッキャと部屋を飛び出していった。

「仲謀。いくら公瑾さんでも林檎でイヌとかネコは難しいんじゃないかな」
「そんなもの。あいつらを追い出すための口からでまかせに決まってんだろ」

そう言って、食べかけの林檎を私の口に押し込むと、そのまま仲謀に口を塞がれた。
今日のキスは林檎のように甘酸っぱくて、案外病みつきになりそうだった。


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二人はドアの外にいて、「私たち空気読めるもんね」とか話してるといい/笑