目を覚ますと仲謀が私の顔を覗き込んでいた。 慌てて起き上がると毛布を肩まで手繰り寄せ、

「なっ、なに? 夜這い?!」

と声を上げた。そんな私に仲謀はすぐに反論した。

「ばっ…、誰がこんな貧相な女を夜這いなんかするかよ!」

一瞬カチンとくる単語が聞こえたような気がしたけれど、 いちいち突っ込んでいると話が進まないので私は苛立ちを押さえながらスルーした。

「じゃぁなんで人の寝顔覗き込んでるのよ」

一応は恋人同士なのだから、別に部屋にいること自体は問題ない。 けれど、寝ている隙に顔を覗き込むなんて何かしようとしていたに違いない。 ジッと睨むように視線を送ると、

「お、お前が泣いてたからだよ」

根負けした仲謀はあっさりと口を開いた。

「え……?」

慌てて両頬を確認したけれど、確かにそこは濡れたあとがあった。





Θ Tears Θ





「なに泣いてたんだよ」

そう問いかけられても全然覚えていないのだから答えられるはずがない。

「泣いてないもん」

咄嗟にそう返せば、

「嘘付け。じゃぁその目から流れてるのはなんだよ」

更に仲謀は尋ねる。

「は、鼻水だもん」
「鼻水ってお前……、せめて水って言えよ」

私の言葉に苦笑して、仲謀の手が頬に触れた。 真っ直ぐに私を見つめながら、

「元の世界が恋しくなったのか?」

と問いかけられて、なんとなく元の世界の夢を見ていたような気がした。 けれど、それは所詮夢だ。 私はここで、仲謀と一緒に生きることを選んだ。

「恋しくないよ」

笑顔で返したつもりだったけれど、うまく笑えなかったようだ。

「行くなよ。帰るな!」

仲謀はそう言って、そのまま私を抱きしめた。 ドクンドクンと仲謀の心臓の音がうるさいぐらいに聞こえて、 本気で心配しているんだってことが分かった。

「……うん」

私はそう小さく返事して仲謀の背中に手を回した。 見た本人ですら覚えてない内容の夢を、仲謀は本気で心配してくれている。 それか何だか嬉しかった。

「お前は俺のもんだ」
「うん」
「勝手に帰るなんて許さねぇ」
「うん」
「一生傍にいろ!」
「うん」

涙の跡が完全に乾いても、仲謀はずっとずっと抱きしめてくれて、 私はこの温もりを一生大事にしようと思った。



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寝ながら泣くたびに仲謀はハラハラしてるといい!
「鼻水だもん」って言わせたかっただけのはずがなんかシリアス気味にまとまった(笑)