昼休みのチャイムが鳴るとともに、珍しく渉くんが私の席までやってきた。

「あれ? 凛は?」

てっきり凛の付き添いだと思っていた私は、凛の姿がないことを尋ねる。

「あ、兄貴は早退だっての」
「ふーん。大変だね」
「ま、この街には兄貴が必要だからな」

へへん、とまるで自分のことのように得意げに渉くんは口にして、 それからハッとしたように口を開いた。

「じゃ、なくて。おまえ、今から飯だろ?」
「うん」
「そ…その、……今日も特大弁当食ってやらないこともねーぞ」
「え?」

渉くんの言っている意味が分からず、私はポカンと首を傾げた。 思わず彼の顔を見つめると、そこには真っ赤な顔で私の反応を待つ渉くんの姿があって、 ようやく以前、「食べきれないから食べてくれると嬉しい」と言ってご飯に誘ったことを思い出した。 つまり渉くんは、私と同じ方法で私をご飯に誘ってくれているのだ。 その証拠に彼の手には購買のパンが三つ握られていた。 わざわざ私を誘ってくれたことが嬉しくてパッと笑みを浮かべると、

「うん、ぜひ…………」

と言いかけるものの、その続きが出てこない。

「なんだよ。オレとじゃ不満だってのか?」
「そうじゃない……、そうじゃないんだけど……」

言って私は自分の鞄からお弁当を取り出した。 そこにはいつもの重箱ではなく、私がお母さんと一緒に住んでいたころまで持ってきていたお弁当箱があった。

「今日はね、私が作ったんだ」
「……で?」

今度は渉くんが私の言葉の意図が分からないと言いたげに首を傾げた。

「だから、黎明みたいに美味しくないかもだし……」

モゴモゴと口にすると

「あのな。フライコールの奴が作った弁当は確かにうまかったけど、ソレだってうまいに決まってんだろ?」

渉くんはあっさりと口にした。

「……なんで?」

だって渉くんはまだ私のお弁当を食べたことがないのだ。 なのにここまでキッパリと言われると、逆に理由が知りたくなってしまった。

「そんなの、お前が作ったからに決まって…………」

そこまで言って言葉を飲み込むと、真っ赤な顔で俯いてしまう。 そんな乙女のような反応をされては私まで真っ赤になるわけで、 私たちは真っ赤中でお互いに俯き合っていた。



「あー面倒くせぇ」

不意に彼はそう呟くと、私の手を取って歩き出した。

「えぇっ?!」
「ごちゃごちゃ言ってねーで、行くぞ」
「ちょっ…渉くん……」
「評価なんてもんは実際食えばいいんだよ」
「え?」
「だから、お前の作った弁当を食うって言ってんの!」

耳まで真っ赤にしながらもハッキリと告げてくれた渉君の背中を見ながら、 私はだらしないほど笑みを浮かべてしまうのだった。



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な、何とか渉書けました…! こっそりAさんへ。ほんとにありがとうvv