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ナツコイ Θ
白い砂浜、青い海。
やっとの思いでもぎとったお休みに、私は約束通り海に来ていた。
新しい水着を買っちゃったりしてルンルンで着替えたというのに、
背後からしがみついた漣が放れてくれなくて、私は暑苦しいことこの上ない。
「ちょっと、漣〜。私は泳ぎたいの。暑いの。海が恋しいの」
そう喚いたところで漣が放してくれることはなくて
「我がお姫様はわがままだなぁ」
なんてのんきな口調で告げられた。
漣は水着の上からパーカーを羽織って私に抱きついているのだけれど、
私は完全にビキニで、こんなに密着されるといくら式神相手といえど恥ずかしい。
「ふふっ。せっかく要ちゃんを独り占めできるんだから、もう少し傍にいさせてよ」
そう言われてしまうと力任せに脱出することもできない。
漣が私の式神になるまでにいろいろあったし、式神になってからはお役目ばかりでのんびりと話など出来なかったのだ。
「それに。要ちゃんがまだ僕相手にドキドキしてくれるのが嬉しくてさ」
「式神だろうと漣は漣だもの」
あのまま彼が消えてしまうのが嫌で私の式神にしてしまった好きな人。
他の退魔師がみたらきっと式神に対してこんな感情を抱いたりしないのだろうけれど、
それでも私は漣と一緒にいられるのならどんな形でもよかったのだ。
「それはそれは。僕だけがベタ惚れってわけじゃなくて安心したよ」
「あ。妬いてたんだ」
漣の今の行動の意味を理解してそう告げると、彼はちょっと拗ねたように口を開いた。
「だって要ちゃん、僕でさえ初めて見た水着姿なのにその辺の男たちにも見せるんだもん」
「ちょっ……人聞きが悪い。海って言ったら水着でしょ?」
「うーん。それはそうなんだけど、君があんまり可愛いから放れたくないんだよね〜」
「からかってるでしょ」
ジロリと睨むと彼は私の睨みなどお構いなしにふわりとほほ笑んだ。まったくもう。
これでは怒るに怒れない。
漣がこんな態度なのは出会ったころから変わらなくて、私の方が免疫がついてしまった。
「はぁ〜。いいよ、わかった。それ貸して」
「ん?」
きょとんとする漣からパーカーをむしり取ると私はそれを羽織った。
「ほら、漣の手はこっち」
再び抱きつこうとした漣の手を握り締めると、私たちは海岸を並んで歩いた。
「お休みはいっぱいもらったからさ。今日は手を繋いで散歩しよう。漣は私の恋人ですって自慢する勢いで」
「ふふっ。それはいい提案だね、お姫様」
私の言葉に漣はようやく合点がいって笑みを返してくれたのだが、
「ねぇ、だったらこっちの方が効果覿面だと思わない?」
「な……に…?!」
足を止めた漣を不思議そうに振り返った瞬間、銀色が私の視界を覆った。
それからふわりと柔らかいものが唇に触れ、気づいた時には唇同士が重なっていた。
「れ、れ、れ、漣〜〜〜!!!」
真っ赤な顔で私が怒ることなど百もわかっていた漣は、そのまま私の手をひっぱるように歩きだした。
あの時、漣を式神にするのに迷いも戸惑いもなかったけれど、今はちょっとだけ後悔している。
これでは私の心臓がいくつあっても持たないからだ。
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漣は式神EDのが好きです。