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未来予報 Θ
昼休みになると決まって弁当を持ってにゃーの元へ行く。
しばらくするとどこから嗅ぎつけたのか、神楽坂までやってきた。
数日前まではオレとにゃーの憩いの場所が、気づけばコイツに占領されちまったけど、
…………どーゆーわけか、そんなに嫌じゃないんだ。
「にゃー、来たよ〜。一緒に弁当食べような〜」
「うおっ!? なんでオマエも来るんだよ」
口ではそんなことを言いながら、どこかそわそわとしていた自分に気づく。
オレが猫好きなのを知ってもからかったりしない変なやつだからだろうか。
「人がどこで弁当食おうが勝手だろ」
と少し怒ったように告げて、にゃーにはニコニコと笑顔を向ける。
……なんつーか、面白くねぇ。
「あ。そうだ、悠斗。今日もオレ、キャットフード持ってきたぜ」
「お。サンキュー……って、オマエまさか缶切り……」
「今度は持ってきたっつーの。まったく、馬鹿にすんなよな」
そうぷりぷり怒りながら、キャットフードの缶詰と缶切りを手渡す。
オレはそれを開けてにゃーの前に置く。
「……にしてもにゃーはほんと好き嫌いないのな」
「ったりめーだろ。この前も好き嫌いなく何でも食べるいい子だっつったろ」
「うん。……なんかこーしてみてるとさ。親になった気分」
ガツガツと飯を食うにゃーを眺めながら、神楽坂はポツリと告げた。
「……は?」
その言葉の意味を理解するのに時間がかかり、一拍おいてから聞き返す。
「だーかーら。オレと悠斗の子どもみたいじゃん? ははっ、可愛いな」
「ばっ、気色悪ぃこといってんじゃねーよ」
思わず真っ赤になって抗議したけれど、オレの反応は間違ってないはずだ。
「なに本気にしてるんだよ。オレとキミから猫が生まれるわけないだろ」
なのに神楽坂の反応は特に慌てた様子もなくて、ほんとにただ単に見たまんまを答えたようだ。
これじゃオレ一人だけがバカみたいに意識してるようなものだ。
「そっ、そーだけど」
そう思ったらまた面白くなくて、シュンとした。
そんなオレに気付かずに、神楽坂は言葉を続けた。
「だいたい。その場合背の低いオレの方が母親だってなんだろ?」
「なっ……」
神楽坂が母親って、そんなバカな。
確かにコイツはオレより背が低いし、見た目も女っぽいけど、
でもだからって母親って……そしたらオレが父親か? ちょっ、なに言ってんだよバカッ。
「そんなのありえないだろ……っておい、聞いてるのか? 悠斗」
脳内であれやこれやと妄想を繰り広げていると急に神楽坂がオレの顔を覗き込んだ。
「うわぁ!」
突然のことに驚いてひっくり返ったオレを、神楽坂はぷっと笑った。
クラスメイトにもオレはよく笑われるけど、それとは違ってなんか心地いいっつーか。
「変な悠斗。あ、そろそろ予鈴鳴っちまうよな。続きはまた明日にしようぜ」
「……あぁ」
思わず頷いてしまったオレは、神楽坂がここにくることを許してしまったようで慌てて口を開いた。
「オマエ、またここに来るつもりだったら缶詰持って来いよ。絶対手ぶらでなんか来んじゃねーぞ」
そんなオレを神楽坂はまた笑い、
「はいはい。パパは了見狭いな〜」
なんて呟いた。
「だっ、誰がパパだ! 誰が」
「あぁ、オレの方が背を抜かすからママか」
ニヒッと笑って答えた神楽坂はやっぱりムカツクんだけど、
最初に会ったあのころより、コイツに関わるのが嫌じゃない自分がいた。
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ねこの名前がにゃーって(笑)