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男の友情 Θ
十馬と一緒に買い物した商店街を、私はまた歩いている。
前回私がウィンドウ越しにもの欲しそうに見ていたペンギンが売れていないか確認のためだ。
「おい、要ぇ〜。またあのぬいぐるみ見に行くのかよ」
「そうだけど、悪い?」
十馬があの店に行くのを嫌がっているのは知っている。
高校生にもなった男の子がぬいぐるみなんて似合わない。
それに十馬はぬいぐるみよりも木刀の方が似合う奴で、でもだからこそ一緒に連れてきたのだ。
「はぁぁ〜、やっぱり可愛いなぁ」
ウィンドウにベッタリとはりついて私はそのぬいぐるみを眺める。
初めて見た時から可愛いと思ったけれど、一番気に入ってるのは十馬に似ているところだ。
あの極悪男子高校生がペンギンのぬいぐるみに似てるだなんてお笑い草だが、似ているのだから仕方ない。
「オマエ、ほんっと変ってんよなぁ」
「えー? そーかな」
「そーだ。男がんなぬいぐるみだなんて……女じゃあるまいし」
やっぱりこういう場所に居づらいのか、十馬は真っ赤な顔でそわそわしている。
「……ま、まぁ……似合ってっからいいけどよ」
「ん? なんか言ったか?」
「別になんでもねーよ」
ふんとそっぽ向いてしまった十馬をそのままに、私はだらしなくニヤニヤとそのぬいぐるみを堪能した。
「やっぱ買っちゃおうかな」
「オマエ、女じゃあるまいしぬいぐるみなんか買ってどーすんだよ」
「どーするって……抱きしめて眠るとか?」
「だっ……!」
なにを真っ赤な顔にしているんだろうと首をひねりつつ私は十馬を眺めた。
「あ。頭ん中でオレがぬいぐるみ抱いて寝てんの想像したとか」
「ばっ……だ、誰がんな気色悪ぃこと……!」
仮にもうら若き乙女に向かって気色悪いはないよ。
っていっても十馬は私の正体を知らないのだから仕方ない。
「えー、そうかな。十馬に似てて可愛いんだよな、あいつ」
「んなっ!」
「はは、そんな怒るなよ。あ、でも……」
「今度はなんだよ」
私の言葉にいちいち真っ赤な顔をする十馬が可愛くて、
私は悪戯っぽく十馬の腕に自分の腕をからめると続けた。
「まだサイフが厳しいから当分は十馬に抱きついて我慢すっか」
「んなっ……」
そのまま腕を組んで歩きだした私を十馬は金魚みたいに口をパクパクさせて眺めていた。
剣道が強くて、喧嘩っ早くて、馬鹿がつくぐらいの単純お人好しで、
だけれど……
「(こうしてくっついてんの、嫌じゃないんだよなぁ)」
寧ろ離れたくないと思ってしまうのは男同士の友情ってやつなんだろうかと理由づけて、
私は真っ赤な十馬を引っ張るように商店街を歩くのだった。
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例の買い物の数日後。十馬は要が気になって、要はまだ恋に気づいてないといい。