「ずっと内緒にしていたけど、私は君が嫌いなんだよ。玄奘」
その言葉に彼女は困ったような顔をした。
Θ
毒を囁く Θ
以前悟空に私に好かれたと言われたときも同じように困った顔をしていたけど、
果たしてどちらの方が困った状況なのかは私の知るところではない。
けれど、彼女は訳もなく嫌われるのに納得いかないようだ。
「ふふ、何かな? 玄奘」
「い、いえ」
私が仙人でなく人であったなら、彼女は気兼ねなく私に尋ねただろう。
けれど、私は高位の仙人。彼女はただの人間。
本来ならば言葉を交わすことも許されないのだ。
「また来やがったのか」
私の姿を見つけるなり悟空はうんざりしたように口を開く。
面倒だと言いながらもちゃんと相手してくれる悟空のそういう変わらない部分は本当に好きだった。
「残念ながら今日は悟空ではなく玄奘に用事だよ」
「なんだよ、珍しい」
悟空はそう口にすると素直に玄奘を呼びに言った。
玄奘はすぐに私の元に来てくれたけれど、どこか気まずそうにしていた。
それでもときおり私の様子を探るように視線を送るから可笑しくてたまらない。
「何か言いたいことがあるって顔をしているね」
「当然です」
そう言って彼女は拗ねたように口をとがらせた。
そういう態度は三蔵法師からかけ離れていて、好感が持てる。
「怒らないから言ってごらん、玄奘」
にこにこと口を開くと彼女は渋々と言った感じで口を開いた。
「真君は私を嫌いだと仰いましたよね」
「うん、そうだね」
その日を境に玄奘は無関心だった私を、嫌そうに視界に入れていた。
「わざわざ嫌っている相手に話しかけなくてもいいんじゃないですか?」
玄奘の言葉に私はにんまりと口の端を持ち上げる。
「私が嫌いだと言えば、玄奘は嫌でも私を気にするだろう?」
その言葉に、彼女の目が驚いたように大きくなる。
こういう素直な反応をされると、本当に嬉しくてたまらない。
「私…に、気にして欲しいんですか?」
思わずといった感じで、口を出た言葉に彼女はハッとしたようだった。
それもそうだろう。
自分より位の高い、それも仙人相手に、自惚れのようなことを尋ねてしまったのだ。
「そうだね。できたら悟空を気にするぐらいは私を気にして欲しいかな」
告げると彼女は赤くなったり青くなったり、面白いほどに顔色を変えた。
そこが私を惹きつけてやまないことなど知らないのだろう。
「だから私は、これからも君を嫌い続けるよ」
にんまりと笑ってそう告げながら、今度は愛の言葉でも囁いてみようかとふと考えて、
それはひどく滑稽なものに思えてしまった。
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玄奘が自分を気にすると悟空も自分を気にするから、ささやかな復讐を楽しんでいるといい。
でも玄奘のことはそれとなく気に入っているといい