Θ 頭痛の種がやってきた Θ




突然現れた二郎真君の言葉に、私はただただ目を大きく見開いてしまった。

「おや、聞こえなかったのかな?」
「い、いえ。ですが、あの……」
「ふふっ、照れた顔はただの少女のようだね」

ふわりと微笑んで彼は私の頬に手を伸ばした。 ビクリと思わず身体が強張った私に、様子を見ていた玉龍が殺気を放つ。

「お師匠様から、離れろ」
「だよね。オレも正直、いい気分ではないかな?」
「玄奘様にはやらねばならないことがあります」

続けて八戒と悟浄が口を開いた。

「私だって、冗談でこんなことを言ったわけではないよ」

ニコニコと、いつも冗談を告げる笑みを浮かべたまま、彼は同じ言葉を告げた。

「私のものにならないかい?」
「あ…あの……」

キッパリと断るにはあまりに恐れ多い方で、それに冗談を真に受けたと思われるのもなんだか癪だった。 ハッキリしない私のかわりに、「面倒くさい」と離れて見守っていた悟空が、 私の肩を引っ張って二郎真君から引き離してくれた。

「ハッキリキッパリバッサリと言ってやれ。てめーなんて趣味じゃねぇって」
「ですが、悟空……」

仮にも天界の方にそのようなことは言えないと続けて口にすると、 目の前で当の本人は「あはは」と声に出して笑いだした。

「なんとなく面白そうだったから告白してみたんだけど」

その言葉に悟空は「ほれみろ」と目で訴えてきた。

「でも、赤く染まった君はあまりに可愛らしかったし、 そういう本心だだ漏れなところも気に入ってるから本気になってもいいかなって思っちゃったよ」
「え?」

私の驚きと、悟空の「はぁ?」という声がピッタリ重なった。

「それに……そうなったらなったで、悟空たちの反応を見るっていう楽しみがまた増えるよね」
「……私たちで遊ぶために告白なさったんですか」

いくら偉いお方だと言っても、そんなふうに暇つぶしで人の気持ちを弄んでほしくない。 そう思って失礼だとは思いながらもムッとした態度で告げると、

「言っただろう? 君が可愛らしかったって」

と言って二郎真君は私の手を掴むとその手の甲に口付けた。

「〜〜〜〜ッ!!」

私の声にならない悲鳴を合図に玉龍は水術を唱え、悟浄は剣を抜いたけれど、 二郎真君はヒラリとそれらをかわしながら実に楽しそうに笑っていた。



「……頭が、痛い」

頭痛の種がまた一つ増えたことに、私は盛大な溜息をついた。



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