「……後悔は、ないのですか?」

野営の見張りを申し出た大聖の隣で、炎を見つめながら告げた。 一緒に戦ってほしいと告げたのは私だというのに、 彼らに、大聖に天界を裏切らせたことに少しだけ胸が痛む。 けれど私のその言葉に、大聖はただ目を丸くした。



「あなたは楊漸と約束したのでしょう?」

天界を変えると。 木叉と三人で内側から変えると誓ったことを目を輝かせながら私に話してくれたのは、 他でもない大聖なのだ。

「なにも今動いて目を付けられなくても良いでしょうに」

この戦いが無事に終わったとして、仙たちが私や大聖をそのままにしておくはずがないのだ。 危険因子として、力を奪われてしまうかもしれない。

(まぁ、大聖になにかあれば楊漸がなんとしても助けてくれるとは思いますが)

そんなことを考えていると大聖の大きな手が私の頭に触れた。

「金蝉子がやろうとしていることは、結果として俺たちがしようとしていることに繋がる。だから、気にすんな」

ニッと口の端を持ち上げて笑いかけながら、ゴツゴツした手で私の頭をかき混ぜる。

「それに……」

その手が不意に止まった。 どうしたのかと視線をあげれば、まっすぐに私を見つめる大聖の目とぶつかった。

「俺の知らないところであんたが死ぬ方が、俺はきっと後悔する」
「…………ッ」
ポツリと漏れた言葉は、大聖の飾りのない本心だ。 だからこそ、私の頬を赤く染め上げるのに十分な効力を持っていた。

(私はもっと打算的な女だと思っていたのに、これではまるで……)

ただの小娘のようだと思った。 好意を真っ直ぐに告げられ、頬を染め、観音辺りが見たらきっとお腹を抱えて笑うだろう。

「ありがとうございます、大聖」

けれど、私はそれを素直に受け止めることなど出来ないのだ。 だって受け入れてしまえば、彼を深く傷つけることを知っていたからだ。 私の計画はもう動き出した。止まれないのだ。

(大聖といると自分がひどく純粋な女の子になったみたいだ)

そう考えてしまう自分自身に自嘲しながら、 どうか大聖の目には最期までそうであってほしいと思った。





許されるなら




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(金蝉子は自分に向けられる好意に気付くけど答えられないんだろうなと思ったら書きたくなりました)