「僕さ、おまえの顔を見ていると気分が悪くなってくるんだよね」

そう言いながら今現在、観音は私の両頬に手を添えマジマジと顔を覗きこんでた。 いつも以上の至近距離に多少うろたえながらも、

「私もです」

と返せば、にこりと微笑んだ。 私に対して見せるいつもの意地悪そうな笑顔ではなく、 如来や木叉に見せるような笑顔だったことに少しだけ驚いてしまう。

「僕らって案外似た者同士なのかもしれないね」

観音の言葉は私の中にすんなりと入ってきた。 なぜなら、観音の嫌味に対して私はいつも自然と受け答えしていたからだ。
慣れたわけではないけれど、観音を前にすると言葉が勝手に出てしまうのだ。



「だから」

私が考え事をしている間に観音はスッと顔を近づける。

「ッ!」

吐息が顔にかかるほどの距離に息をのむと、観音は実に楽しそうに笑った。

「僕がおまえに興味を持ったと言ったら、それはおまえも僕に興味を持ったということになるのかな?」
「な……?」

何を言っているのだろう。 観音の言葉がまるで私の知らない言語のように意味が理解できなかった。

「そういう間の抜けた顔もいいけれど」
「っ!??」

呆けた私に観音がそっと顔を近づけた。 吐息がかかるほど近かった二人の距離がぐっと縮まり、微かに唇同士が触れた。 パチンと私の頬に触れていた観音の手を叩き、距離をとる。

「うん。おまえの顔は見ていると気分が悪くなるけど、そういう怒った顔は割りと好きだよ」

位の高い観音を叩いた無礼を咎めるでもなく、彼は実に楽しそうに笑った。

「わ……、私は」
「なに?」

肩で息をしながら、

「どんな顔の観音も、気分が悪いです」

何とか一気にまくしたてたけれど、

「ははっ、小娘のような上気した頬で言われても説得力がないよ」

言われるまでもなく自分の顔が赤ことは自覚していたけれど、 指摘されるとますます熱を帯びていくようで、頭の中がぐるぐると回って考えがまとまらない。

「ねぇ、金蝉子。僕のこと、けっこう好きだろう?」

言われて「いいえ」と即答したけれど、観音はなぜか嬉しそうに笑った。





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(観音×金蝉子っていいよね。たぶんどっちも認めないだろうけど)