休憩時間にいなくなった悟空を探しに森の中に入るのはいつものことで、 大抵森の中で彼は寝ていた。

「もう少し、やる気を出してくれてもいいのに……」

そう重いながら歩いていた私は、予想外のものに躓き派手に転んだ。





Θ 愛の重さ Θ





「いたた……」

足と頭をさすりながら身体を起こすと、

「痛ぇ」

という声が下から聞こえた。 どうやら私は悟空に躓いて、そのまま彼に乗っかる形で転んでしまったらしい。

「す、すみません」

謝罪の言葉を口にしたものの、こんな草の中で寝ている悟空にも問題があるのではないかと気づいた。

「よく見ていなかった私も悪いですが……」

そう前置きをしていつものようにお説教モードに入る。 悟空は「げぇ」と苦虫を噛み潰したような顔をして、慌てて身体を起こした。

「んじゃ、俺は帰るから好きなだけ説教してていいぜ」
「誰のせいでお説教していると思っているんですか」

歩き出そうとした悟空に手を伸ばして、私は慌てて立ち上がった。 その瞬間、体重をかけた右の足首ににぶい痛みが走る。

「…………っ」

顔をしかめながら思わず掴んだ悟空に体重を預けてしまう。 彼はゆっくりと振り返ると、

「どっか捻ったのか?」

と言って私の足元にしゃがみこんだ。 再び私を座らせ、彼は私の足を掴んでは甲を伸ばしてみたり足首を回してみたりしている。

「…っ!」

足首を回されそうになった瞬間、また痛みが走る。

「こけたときに捻ったんだな」
「そう…ですか」

とりあえず、折れたり捻挫しているわけではないと分かり、 私は辺りを見渡した。

「悟空。すみませんが金錫を置いてきてしまったので、代わりになる木の枝を探してきてくれませんか?」

私の言葉に悟空は返事せず、何故か私を立ち上がらせた。 それから戸惑う私の前でしゃがみこんで「ほれ」なんて言うものだから、 私はますます戸惑ってしまう。

「ご、悟空?」
「乗れっつってんだよ」
「ですが……」
「いいから」

有無を言わさない悟空に気圧され、渋々私はその背中に乗った。





「…………」
「…………」

こんなにも悟空と密着しているのが恥ずかしく、 気を紛らわせようと私は口を開いた。

「お、重くはないですか?」

その言葉に悟空はあっさりと、

「重いに決まってんだろ」

と答える。

「そ、そこは普通、嘘でも重くないというのが礼儀です」
「あ? お前、俺に嘘付いてほしいのか?」
「そ、そうではありません……けど」

私だってこれでも女の子なのだ。 こんな格好だからお洒落とは程遠い位置にいるけれど、 それなりに気にしたりしているのだ。

「なんだよ。ハッキリしねーな」

そんな女心なんて微塵も考えたこともないであろう悟空は、 イラついたように口を開く。

「もういいです。下ろしてください」

これ以上悟空に迷惑をかけたくない一心で、私は口を開いた。

「は?」
「重たいのでしょう? なら、下ろせばいいです。これぐらい、一人で歩けます」

これ以上一緒にいても迷惑しかかけないような気がして、 私は意地になって口を開く。 けれど、悟空は「黙ってろ」と言って歩みを進めてしまう。

「悟空」
「いいから黙ってろ」
「ですが……」

それでもまだ口を開こうとする私に、 悟空はポツリと呟くように口を開いた。

「俺が歩かせたくないんだ」
「…………え?」
「それぐらい悟れ」

言われた言葉は私の幻聴だろうかと考えてしまったけれど、 私の視界に入る悟空の耳が赤いから、嬉しくなって、笑みがこぼれた。



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悟浄でお姫様抱っこだったので、悟空はおんぶ。「重いに決まってんだろ」は照れ隠し。