街について久しぶりの自由行動。 荷物を宿に預けると、私は甘味処へと足を運んだ。

「……あれ?」

店はすでにたくさんの人で溢れていて、 店内を見渡してみるとつい先ほど別れたばかりの人物が目についた。

「悟空!」
「……チッ」

ひらひらと手を振ると彼は面倒くさそうに舌打ちをして、 私は店員さんを捕まえると、「相席お願いします」と言って悟空の向かいに座った。





Θ 手を繋ぐ理由 Θ





「やっぱり来んのか」
「混んでいるのですから我慢して下さい」

悟空にそう言いながら、私はメニューも広げずにあんみつを注文した。 悟空が同じものを食べていたからだ。

「……って、同じもんかよ」
「美味しそうに食べる悟空が悪いんです」

頬杖をついてあんみつを食べる悟空を真正面からニコニコと見つめた。

「な、なんだよ」

私の視線に居心地が悪くなったのか、 悟空はスプーンで一口すくった状態で、私に視線を送る。

「ふふ。ただ見ているだけです」
「……見んな」
「いいじゃないですか」
「よくねぇ」
「悟空があんみつ食べているなんて珍しいですし」

そんな会話をやり取りしているとすぐに私の分のあんみつも届いた。

「いただきます」

両手を合わせてそう口にすると、早速スプーンを握った。 口に運ぶととろけるような甘さが広がって、旅の疲れも癒えるようだった。



それからは私が一方的に話しかけ、悟空はあんみつの合間に 適当に返事をしていただけだったけれど、私は終始ご機嫌だった。 その理由はこんなにも長い時間、悟空と会話したのが初めてだったからだ。

「なにがそんな楽しいんだよ」

あんみつを食べ終わり、二人でお茶をすすっていると悟空がそう尋ねるから、

「デートみたいで楽しいじゃないですか」

と口にした。
どうにも私は悟空や八戒に言わせると頭が固いらしいから、 二人を見習ってそう告げたのだけれど、悟空は驚いたように目を見開いていた。

「あら? 向こうの通りにいるの、八戒ですよね」

頭の中に浮かべた人物が現れて、思わず私の声が弾んだ。

「折角ですから八戒も誘って……」
「出るぞ」

私の言葉を遮るように悟空は口を開いた。

「え?」
「デート、なんだろ?」

悟空の口からそんな言葉が飛び出すと思ってもいなかった私は、 目をパチパチと瞬きさせながら悟空を見つめてしまった。 一向に動かない私に痺れを切らしたのか、悟空は「チッ」と舌打ちすると 二人分の代金をテーブルの上に置き、 そのまま私の手をとって店を飛び出した。

「ご、悟空?」
「なんだよ」
「手。引っ張らなくても……」

私の言葉に彼はピタリと足を止め、掴んだ手をマジマジと見つめたのだけれど、

「手ぐらい繋ぐだろ」

小さくそう口にすると歩き出してしまった。


私の言葉を真に受けてデートてくれる悟空に驚いたものの、 こんな休日もありかもしれないと、私もその手を握り返すのだった。


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空→玄。玄奘の「デート」に他意はないと知りつつ、八戒に邪魔されたくないと思わず嫉妬した悟空の話。
説明しないと伝わらないのは私の力量が足りないせい…。リクエストありがとうございました!