「……本当に、手当てしていたんですね」

想像通りの光景が目の前にあって、思わず私はそう漏らしていた。
休憩時間に姿の見えない悟空を探しに来た私は、 悟空が怪我した小動物をこっそり手当てしている光景が見れないものかと考えていた。 まさかそのままの光景が広がっていようなど思っていなかったのだ。





Θ スマイル Θ





「あ? ……なんだ、お前か」

チッと舌打ちしながら、悟空は手の中の動物を地面に下ろした。 それは小さなリスだった。足に怪我を負ったのか、ひょこひょこと足引きずるように歩いていた。

「薬を塗ってあげていたんですか?」
「別に。ただ、新しく作った薬の実験していただけだ」

ぶっきらぼうにそう告げたけれど、すり寄ってきたリスを当たり前のように優しく指で撫でていた。 悟空はこういう男なのだ。面倒くさがりで口が悪いけど、基本的に優しい。

「私も撫でていいですか?」

そう言って悟空の隣に腰を下ろす。 リスは私に警戒しているのかササッと悟空の身体に上り、 私から遠い方の肩で様子をうかがっている。

「ククッ。んな怖ぇツラしてたら懐くもんも懐かねーよ」
「悪人面の悟空に言われたくはありません」

そう言って悟空を睨みつけると、

「お前の方が悪人面だろ。なぁ?」

そう言って悟空の指に降りてきたリスに向かってにっこりと笑いかけた。



「…………」

思わずその顔に見惚れてしまった。 だって悟空にそんな顔ができるなんて、知らなかったからだ。

「あ? どした」

ぼんやりとしたままの私に気付いて、悟空は怪訝な顔をする。

「いえ。悟空の笑顔を初めて見たなと思いまして」
「はぁ?」
「私は……、私はまだ、一度も笑いかけてもらってません」

悟空の顔を見てキッパリと告げた。

「私は悟空にとってなんですか? 仲間ではないのですか?」

たった今、出会ったばかりのリスには素直に笑顔を見せた。 けれど、永い間一緒に旅する私には、まだそれを見せていない。 それがなんだか悔しかった。

「どうした? 急に……」

悟空の声にハッとなった。

「自分でも、分かりません。……ただ、少しうらやましくなってしまいました」

下を向いた拍子にポツリともれたのは紛れもなく本心。 このリスと自分を比較して、何故か悔しくなってしまったのだ。

「……ったく。面倒な三蔵法師様だな」

呆れたような悟空の声に、「申し訳ありません」と俯いた私を、悟空の手が上を向かせる。 そこには声音とは裏腹に、困ったように笑う悟空の姿があった。 困らせたのは私。だけれど、どうして彼は笑っているのだろう。

「比較対象が根本的に違うだろ」

悟空はそう言って可笑しそうに笑った。 その笑顔は私がとても見たかったものだったのに、 顔が熱を帯びていくのを感じてつい、

「悟空が笑顔だなんて、気持ち悪いです」

と心にもないことを口にした。 けれど、私の真っ赤な顔に気づいていた悟空は、

「はいはい。そりゃ、悪ぅございました」

と悪びれた様子もなく告げて、手の中のリスに笑顔の大安売りをしていた。



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悟空も動物に好かれてるといいなと思います。