またやってしまった。
街に着くたび悟空や八戒がお酒を浴びるように飲むのは諦めるとしても、
酔った八戒が悟浄にお酒を勧めるのは予想がついたはずだ。
「うひゃ〜〜〜、おっかねぇ」
「あの兄ちゃん、抜き身の剣を握り締めてたよなぁ」
「オレなんて剣つきつけられて、女の愛はどこで手に入る? なんて聞かれたんだぜ」
「うへぇ、おっかねぇ」
酒場に入ってきた客たちが、口々に告げた言葉に、
「……この街には随分と物騒な方がいるんですねぇ」
お茶を飲みながらどこかの街でも呟いたことを口にした。
前は悟空に現実逃避するなとつっこみを入れられてしまったけれど、
久しぶりに野宿から解放されるとあって、悟空も相当な量のお酒を飲んだのだろう。
私につっこみを入れる余裕がないほどに酔いが回っているようだ。
そうなると自然とあの物騒な人間を回収するのは私の役目になる。
「玉龍、この二人をお願いします」
「わかった」
過去の経験から、特に危険はないと判断した玉龍は素直に従った。
酒場の主人にも簡単な事情だけ話すと、私は頭を抱えながら問題児の回収に向かった。
Θ
愛を叫んだケモノ Θ
悟浄の居場所はすぐにわかった。
前回同様、街の人たちの反応を辿っていけばいいのだ。
「あれほど男のよさは女の数ではないと言ったのに……」
前回話の途中で寝てしまった悟浄は、目を覚ますと酔っていた間の出来事は覚えていなかった。
だから酔った彼を止めるには、酔った状況で納得させなければならないようだ。
「……って、またこんなひとけのない場所に……」
酔っ払いとは自然と人目を避ける習性でもあるのだろうか。
フラフラと移動を繰り返した悟浄は、路地裏にたたずんでいた。
前は悟浄に気を取られ、背後の別の酔っ払いにからまれてしまった。
前も後ろも酔っ払いという状況だけは勘弁して欲しいので、何度も周りを確認した。
「……悟浄」
声をかけると、ピクリと彼の肩が反応を示した。
振り返った彼の手には、締め上げられている街の人がいた。
彼もまた「女の愛はどこで手に入る?」なんて馬鹿な質問をされたのかと思うと、心の中で合掌をした。
「悟浄、その方を放しなさい」
私の言葉に彼はあっさりと手を離した。途端に「ひえぇぇっ」と街の人は逃げ出した。
彼はそんな様子には目もくれず、ただじっと、私を見つめている。
「なんのようだ?」
普段の彼からは想像もつかないほど威圧的な態度の彼に一瞬たじろいでしまった。
それでも、私は一歩前に出た。
いくら抜き身の剣を振り回していても、悟浄は悟浄なのだ。
例によって八戒に「男じゃない」と言われ剣を抜いてしまったとしても、
「男ってのは強さだけじゃないんだぜ。いかに女の愛を得られるかだ」
なんて馬鹿にことを真に受けてしまっても、遊郭に行くこともできない誠実な人。
「前にも言ったでしょう。男の強さが女の愛の数で決まるだなんて、そんなことありません」
子供に諭すように口にすると、彼は思ってもいなかったことを口にした。
「なら、お前の愛はどうすれば手に入る?」
「…………はい?」
一瞬、意味が分からなかった。
いや、理解することを脳が拒否したのかもしれない。
だって八戒ならまだしも、あの悟浄が私にそんなことを告げるなんて、思ってもいなかったからだ。
それでも彼はまっすぐに私を見て告げた。
女の愛が「どこで」手に入るのかではなく、私の愛が「どうすれば」手に入るのかと。
「あの……ですね。悟浄」
「なんだ」
「そういうのはお酒を飲んでいないときに言っていただけた方が、私としては嬉しいのですが」
生まれて初めての告白が酔った勢いで、だなんてあんまりだ。
頭を抱えながらそう口にした私に、
「それもそうだな」
なんて言って笑う彼の笑顔があまりに綺麗で、
お酒を口にしていないのに私の顔まで赤くなったような気がした。
もしかしたらこの騒動は、悟浄なりの私への精一杯のアプローチではなかったのかと思ったけれど、
当の本人は安心したのかまた地面に大の字になって寝てしまい、真相は有耶無耶なままだ。
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普段の悟浄より、酔った彼の方が好きです