玉龍が炎を怖がっていることを、あの日私は初めて知った。
燃えさかる炎を前に完全に我を忘れた玉龍に、私は「術を使って下さい」と言ってしまったのだ。
なんて残酷なことを口にしたのだろう。
「お師匠失格……ですね」
知らなかったとはいえ彼の傷をえぐったようなものだ。
取り乱したあの状況で、それでも彼は私を守ろうとしていた。
気合いを入れるようにパチンと両頬を軽くたたいて、私は立ちあがる。
「玉龍の様子を見てきます」
そう仲間に言い残し、一人離れた玉龍のもとへと向かった。
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空色ほっぺ Θ
「隣、いいですか?」
膝を抱え込むように座り、蹲っていた玉龍。
こんなにも綺麗な空が玉龍にとってはすべてを飲み込むような炎に見えると思ったら、
とても一人にしておけなかった。
「休憩とはいえ、あまり単独行動はしないで下さい」
私の言葉に玉龍は「ごめん」と呟いた。
そんな素直な玉龍だから、回りくどい言い方などせず、私も率直に告げた。
「夕焼けは嫌いですか?」
瞬間、玉龍の肩がビクリと動いた。
こんなにも分かりやすい反応をする玉龍を見るのは初めてだ。
「過去に何があったのか、私は知りません」
玉龍が話してくれないのなら、それは言いたくないことだ。
だからわざわざその件について詳しく話を聞こうとは思わない。
「それでも、今は私があなたのお師匠なんです」
玉龍が取り乱すことはいつだって「お師匠様」のこと。
彼が私を誰かと重ねているのは知っていた。
それでも、あえて私は「お師匠」という部分を強調して口を開いた。
「夕焼けを見てあなたが炎を連想してしまうなら、別の思い出を作ればいい」
「別の……思い…出?」
ようやく顔を上げた玉龍は、まるで迷子のような表情をしていた。
だから私は彼を安心させるように、ふわりと笑った。
「そうです。例えばこんなふうに……」
そう口にして、座ったままの玉龍をしっかりと抱きしめた。
ビクリと緊張した様子が両腕に伝わったけれど、それでも私は玉龍を離さない。
「今度から、私を思いだして下さい」
そう言ってそっと腕を緩めると、目の前には驚いたまま固まっている玉龍がいた。
一言言ってから抱きしめれば良かっただろうかと考えていると、
今度は彼の方からぎゅっと私にしがみついた。
「……玉、龍……?」
自分から抱きつく分には幾分か心の準備ができていたから、なんともなかった。
それなのに、玉龍に抱きつかれるなんて想像すらしていなかった私は、完全に狼狽していた。
「ありがとう。お師匠様」
そっと腕を離し、もう大丈夫だと言うようにふわりと笑ったその笑顔に、
顔が熱くなるのを感じた。
なぜ玉龍を一人にしておけなかったのか。
そんなもの、理由は一つしかないではないか。
「……お師匠様、顔、真っ赤」
玉龍に指摘されたことによって私はますます顔に熱が帯びるのを感じた。
「ゆ、夕焼けのせいです」
と咄嗟に口にしたけれど、玉龍は少しだけ嬉しそうに笑った。
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抱きつくのは平気でも、抱きつかれるのは照れます