薄々は感じていたけれど、どうやらお師匠様は犬が苦手みたいだ。 街で見かけると一瞬足が止まるし、 すれ違う時も歩き方がぎこちなくなるのだ。




Θ Θ




「ばれてしまいましたか」

僕が改めて問いかけると、お師匠様は

「すみません。子供の頃に吠えられてからどうしても苦手で」

と苦笑した。

「なんで、謝るの?」
「だって、玉龍が慕ってくれてるのに犬が怖いなんて、情けないじゃないですか」

お師匠様は情けなくなんかない。 寧ろお師匠様にそんな風に思わせる犬の方が悪いような気がしてきた。

「なら、黙らせる?」
「え?」
「お師匠様に吠える犬なんか、いらない」

そう言って力をためると、お師匠様は慌てて口を開いた。

「殺しては駄目です」
「お師匠様に吠えたのに?」
「吠えてもです」
「そうしたら、お師匠様犬を見るたび怖い思いするから……だめ」

きっぱりと告げるとお師匠様は笑った。

「それなら大丈夫です」

そうにっこりと笑うと僕の手を握りしめた。

「玉龍がこうして握っていてくれるなら、怖くありませんから」
「それだけで、いい…の?」
「はい」

お師匠様の笑顔に後押しされるようにつないだ手にぎゅっと力を込める。 予想通りふわりとお師匠様が笑うから、犬も案外悪くないと思った。



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犬が苦手なのは私です…