いつものように悟空が「疲れた」と言って、河原で休憩することになった。 個性の強いメンバーなだけに、休憩時間は各々で過ごしている。 私も木陰に腰をおろして涼むことにした。




Θ 君の視線 Θ




歩き疲れていたのか、少しだけ目を閉じてしまったようだ。 ゆっくりと瞼を開けると、真剣な顔で私を覗き込む玉龍がいた。

「ど…どうかしました…か?」

ぎょっとして声をかける。 確か私が目を閉じるまでは隣で腰をおろし、ヒラヒラと飛ぶ蝶を真剣な顔で眺めていたのだ。

「お師匠様……綺麗」
「は?」

思わずぽかんと口を開けてしまった。 八戒ならまだしも、この玉龍がそんなことをくちにするのだ。 私はまた夢の世界にいるのだろうか。

「……リボン……みたい」

そう言って満足そうに玉龍は笑った。

「あの、玉龍……」

意味が分からず説明を求めようと身を乗り出すと、

「あっ」

玉龍の声と共に蝶がヒラリと飛んで行った。

「…………もしかして、私に止まってましたか?」

尋ねると、彼はコクンと頷いた。

「お師匠様、綺麗……だった」
「あ…いや、私ではなく蝶が……ですよね」

玉龍の言葉を訂正しようと口を開くのだけれど、 彼は私の言っている意味が分からないとばかりに首を傾げる。

「えと。蝶ももう行ってしまいましたし、私を見てなくてもいいのでは?」

会話しながらも玉龍はジッと私を見つめている。 正直、くすぐったいような変な感じで玉龍を見ることができずそう口にしたのに、

「でも、蝶がいなくてもお師匠様は綺麗だから」

と玉龍は告げた。 これが八戒の言葉だったら冗談と流せたのに、 玉龍の言葉は素直で真っ直ぐだから、私の心に簡単に響いてしまう。



玉龍へチラリと視線を向けると、彼は目があった瞬間嬉しそうに微笑むから、 私はますます玉龍の顔が見られなくなってしまった。



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