「お師匠様、どうしたの?」
村を出てから何かを考え込むように最後尾を歩いていた私に気付いて、玉龍が声をかけてきた。
「さきほどのトラなのですが……」
そう言って、私は彼に向けて口を開いた。
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優しい手 Θ
先程立ち寄った村で、女の子が地面に生肉を置いて何かを待っていた。
声をかけるとどうやら逃げてしまったペットを捕まえるために罠をはっていたらしい。
どうにか彼女の手助けをできないかと玉龍に告げると、彼はすぐさまペットを探しに行ってしまった。
女の子から何の動物かも聞かずに探しに行った玉龍にいささか不安を感じながら帰りを待っていると、
彼は大きなトラを連れて帰ってきた。
「フェイ!」
トラを見た瞬間に彼女がパッと顔を輝かせるから、連れてきた動物は間違っていなかったとわかった。
トラは方はなぜか玉龍に懐いてしまい、別れる時間までべったりだった。
「あんなに人に懐いたトラなら、私も触ればよかったなって」
女の子は玉龍に懐くフェイを見ながら、「お姉ちゃんも撫でたら?」なんて言っていたけれど、
臆病な私は最後まで触ることができなかった。
「お師匠様、触りたかった?」
「はい」
玉龍の問いかけに素直に頷くと、彼はそっと私の手をとり自分の頬に導いた。
そのまま私の掌に、スリスリと頬ずりをしている。
「玉、龍?」
彼の行動が分からずそう声をかけると、
「さっき、頬ずりされたから」
と彼は言う。
「……ガオ、って言った方がいい?」
その言葉にようやくトラに触れなかった私を、彼なりに慰めてくれようしていることが分かった。
「ふふっ。玉龍は玉龍のままでいいですよ」
「トラじゃなくて、いいの?」
「はい」
にっこり笑うと彼もつられるように笑った。
それからゆっくりと私の手を離した彼は、改めて私の手をぎゅっと握った。
「玉龍?」
手を繋ぐ理由が分からず彼の顔を見つめると、「駄目?」と小首を傾げられた。
そんな風に真っ直ぐに言われては振りほどくことなんてできず、
「三人に気付かれるまでですよ?」
空いた手でシッと人差し指を立てて告げると、玉龍はふわりと笑った。
その笑顔に私の方が手を離せなくなりそうだと思ってしまった。
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玉龍が可愛すぎてけしからん。