Θ 全力少年 (※学パロです) Θ
千鶴に他意があるのかないのかは相変わらず不明だったけれど、
部活で作ったといってわざわざ部室までカップケーキを持ってきた。
「私、後片付けあるからすぐ戻るね」
言って千鶴はすぐに戻ってしまって、オレは手の中の紙袋をしまりの悪い顔で見つめた。
部室で食ったら誰の邪魔が入るか分からなくて、オレはそのままいそいそと屋上へと向った。
誰もいないのを確認すると、紙袋からカップケーキを取り出す。
「チョコケーキ……かな?」
取り出したそれはチョコレート色をしていて、
オレが甘党だということをまだ覚えていてくれたのかと少し嬉しくなった。
「んじゃ、ま。いっただっきまー……」
ふいに背後から伸びた手がカップケーキを掴むから、驚いて振り返った。
「いよぅ、平助」
「んなとこでコソコソとなにしてんだ?」
そこにいたのは悪友二人組みで、
「か、返せよ」
カップケーキと残りのケーキが入った紙袋を奪ったまま、にんまりと笑った。
「見てたぜ? 千鶴が作ったんだろ?」
「ったく、俺たちにはおすそわけねーのかよ」
オレの返事なんて待たずに、二人は勝手にラッピングを解くと口に入れようとするから、
オレは慌てて二人を制止する。
「ま、まじでそれだけは……あぁっ!」
けれど二人はオレの様子を横目に、パクッとそのままケーキに齧りついてしまった。
オレより先に二人が食ったこともショックだったけど、
オレの頭の中はそんなことよりももっと別のことに向いていた。
「〜〜〜ッ!」
「なっ……!」
左之さんも新八っつぁんも顔を赤や青にしている。
「……だから返せっつったのに」
呆れたようにそう呟くと、オレはひょいと紙袋を奪い返し、
カップケーキを取り出す。
スルスルとラッピングを解き、パクリとそれにかじりつく。
「……なんだ、チョコじゃないや」
自分の好みを覚えててくれた、なんて喜んでしまった自分を思わず自嘲した。
千鶴のケーキはただのケーキだ。
けれど、焼きすぎたのかなんなのか、真っ黒になっているらしい。
ふわふわというよりはガリガリとした食感を楽しみながらも、二つ、三つと口に放る。
「……お、おぃ」
「……こんなん食ったら腹壊すぜ?」
ようやく正気に戻った二人がそう言ってオレを止めるけれど、
「別に? オレ、これ食って育ったし」
シレッと答えて次のケーキに手を伸ばした。
「……だから平助はチビなんだな」
「バカッ。思ってても言うもんじゃねぇよ」
そんな新八っつぁんと左之さんの言葉が聞こえたけれど、オレは聞こえないフリをした。
そのままの足で千鶴のもとに行くと、ちょうど鞄を持って千鶴が出てくるところだった。
「あ、平助君。どうだった?」
「別に。いつもどーり」
「そか。今度は上手くいったと思ったんだけどなぁ……」
ちょっと焼きすぎちゃったと苦笑する千鶴に、心臓がうるさいほど騒ぎ出す。
「っつか、オレ、チョコのが好きなんだけど」
わざと不服そうに告げると、千鶴はふわりと笑って答える。
「知ってるよ。でも、チョコって焦げると苦いでしょ?」
そんなことを言うものだからオレの心臓はますます騒ぎ出した。
「上手に出来るようになったら、作ってあげる」
チョコレートのカップケーキはもう暫く食えなくていいから、
千鶴の作ったお菓子はオレだけの特権であればいいのにと、思ってしまった。
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