2009年08月に発行した合同誌「pretty face」の小説部分です。
ED後のほのぼのした二人をイメージしました。
目を覚ますと最初に飛び込んできたのはニッコリと笑う平助君の顔だった。
「おーい、起きたか? 千鶴」
「う…ん?」
まだあまり働かない頭では、現状が理解できない。
どうしてこんなふうに顔を覗き込まれているんだろうとぼんやりと記憶を辿ると、
平助君に膝枕してもらっていたことを思い出し一気に顔が赤くなった。
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桜 色 の 君 に 恋 Θ
「ごっ、ごめん。平助君ッ! 重たかったでしょ?」
慌てて飛び起きると平助君は「うーん」と暫く考えた後、
「別に重くはなかったけど……、ちっと疲れたかも」
なんて苦笑するものだから、
「ほんとに、ごめんね。平助君の膝ってなんだか寝心地よくて」
と何度も頭を下げた。
平助君の膝を長時間借りてしまった私は、
お詫びとして平助君が満足するまで膝枕をしてあげることにした。
別に他のことでも良かったのだけれど、
私があまりに気持ち良さそうに眠っていたから平助君も寝ころがりたくなったというのだ。
平助君と一緒に生きることを決めた日から、私たちは一緒に住んでいる。
けれどこんなふうにお互いに触れ合うことはめったになくて、
ましてや誰かに膝枕をしてあげるのも初めてなものだから、緊張して体は固まってしまう。
下を向けばすぐ近くに平助君の顔があるわけで、どこを見たらいいのか困ってしまうのも原因だ。
自分がさっきまで平助君の膝でゴロゴロと甘えている間、彼もこんな気持ちだったのだろうか。
( ……うーん。平助君は、普通……だった、よね )
寝転がっている間、平助君の顔を真正面からまじまじと見た記憶はない。
横になってすぐに平助君が髪を撫ではじめ、心地よさと懐かしい気持ちについウトウトしてしまったのだ。
気付けばすっかりと日が傾いて、完全に安心しきっていたのだ。
( っていうか、好きな人の膝で熟睡するなんて、恥かしい……! )
手で顔を覆ったり、記憶を辿っては赤面したりと、自分の失態を思い返しては大忙しだった。
けれどいつまでも平助君を放ったらかしたままそわそわとしているわけにもいかず、
( わ、私も平助君の髪、撫でた方がいいのかな )
なんて考えてみたりもした。
覚悟を決めて恐る恐る視線を下に向けると目を細めて私を見上げている平助君がいるものだから、
目があった瞬間にドキンと心臓が跳ね上がってしまった。
すっかり挙動不審な私を見ながら、平助君は悪戯っ子のように笑う。
「なぁ、千鶴」
「な、なな、なに?」
思わず声がどもってしまったけれど、それには気付かないフリをした。
「お前さ、緊張してる?」
「な、なに…が?」
たかが膝枕でこんなにも緊張しているなんて知られたら、笑われてしまうだろうか。
とぼけて尋ね返した私に、平助君はまた笑った。
「いや、なんか太ももが震えてるなって思って」
「…………ッ!」
緊張していたのは事実だったけれど、
まさか体が震えるほどだとは思っていなかったため一気に顔に火がついたようになってしまった。
「んとに、可愛いのな」
「だ、だって、仕方ないんだもん」
さっきから私の顔を見て楽しそうに笑う平助君に、私は必死で口を開いた。
「誰かに膝枕してあげるのなんて初めてだし、ましてや好きな人にしてあげるのも初めてだし。
平助君がすっごく近くにいるから、私の膝で笑うからドキドキしちゃうんだもん」
そう一気に言い切ると、ハァと息を吐き出し続ける。
「だから私が挙動不審なのも、緊張しているのも、全部平助君のせいなんだから!」
「なんだそりゃ」
ただ一言「照れている」と言えない私は、すべてを平助君のせいにしてしまう。
そんな私の態度に、平助君は相変わらず笑っている。
「ま。慣れてるって言われても困るしな」
「え?」
きょとんとする私に、平助君はサラリと答えた。
「だから、千鶴にこーしてもらえるのは、オレだけの特権ってヤツだろ?」
「〜〜〜〜ッ!」
この短時間で、私はどれだけ真っ赤になればいいのだろう。
触れなくても耳まで真っ赤だと分かるほど顔中が熱くてたまらない。
「もぅ、平助君ばっかりずるい!」
「あ?」
私だけこんなにドキドキして、私だけ平助君を意識して。
慌てふためく私を見て笑うんだと思ったら何だかすごく平助君がずるいと思った。
「平助君と一緒だと、心臓がもたないよ!」
思わず告げた私に、平助君は苦笑して口を開いた。
「お前……、その言葉そっくりそのまま返すよ」
「へ?」
それはつまり、私と一緒にいると平助君もドキドキしているということなのだろうか。
「……そうは見えないよ」
ポロリと本心を漏らすと、
「自覚がねーのが一番性質が悪いんだっての」
と、平助君は告げる。けれど私にはまったく身に覚えがなかった。
「だいたいさっきだってなぁ……」
そう口にして、平助君はハッとしたように押し黙る。
さっきと言われても私はずっと平助君の膝で寝ていたわけで、
特に何か平助君をドキドキさせるようなことをした覚えなんてなかった。
「さっきって、私ずっと寝ていたんだよね」
「覚えてないならいい」
「えー、そこまで言っておいて言わないのはずるいよ!」
やっぱり、寝ている間に何かしたらしい。
「も…もしかして私、何か変なこと言った?」
思い当たるのは平助君が驚くような、突拍子もない寝言だった。
私が平助君をドキドキさせたなんてことは悲しいことにまったく想像がつかなかった。
だから、きっと変な寝言を言って別の意味で驚かせてしまったんだと思った。
けれどそう尋ねた私の目の前で平助君の顔が見る見る赤く染まるから、
なんだか私までつられて赤くなってしまった。
( こ、この反応はなに? 私、どんな恥かしいこと口走ったの! )
微かに覚えていることと言えば夢の中に平助君が出てきたということだけなのだが、
そのときに何か口走ってしまったのだろうか。
「ご…ごめん」
なんだかよく分からないけれど謝ってみた私に、平助君はムッと眉を寄せると起き上がってしまった。
「へ…平助……くん?」
戸惑う私の正面にドンと胡坐をかくと、平助君は子供のようにふんとそっぽを向いて口を開いた。
「ってことは、千鶴は自分の言ったことを取り消すってことなのか?」
急に機嫌の悪くなった平助君に、なんだか取り消してはならないことだけは分かった。だから、
「覚えてなくて、ごめんね」
素直に謝罪を口にすると、
「ま、千鶴だから仕方ねーか」
意外にも平助君は納得したようにそう呟いた。その言葉に安心して息を吐いた私に、
「もっかい同じことを言ってくれたら許してやる」
と、平助君は告げた。
「だ、だから覚えてないんだよ」
もう一回も何も……と続ける私の耳元に唇を寄せると、平助君は私の忘れてしまった言葉を口にする。
途端に私の顔はボッと音が出るぐらい真っ赤に染まった。
「…………ッ! ほ、ほんとにそんなこと言ったの? 私」
平助君がこんなことで嘘をつくなんて思っていなかったけれど、
でもまさか寝言で愛の告白をしていたなんて思ってもいなかった私は、火照る頬を両手で押さえた。
「オレの準備は万端だから千鶴の好きな頃合いでいいぜ?」
「うっ……」
自分の発言を覚えていない私が悪いのかもしれない。
けれど、告白されると分かっている相手に告白しなければならないなんて、恥ずかしい以外の何物でもない。
どこを見たらいいのかわからず、
それでも平助君が許してくれるといったので恥ずかしさを我慢しながらポツポツと言葉を紡いでいく。
「あ…あの……、あのね、平助君」
「あぁ」
「その……えっと、だから……その…ね」
「あぁ」
「私……は、つまり平助君のこと…が」
そう言ってガバッと顔を上げると、にんまりと笑う平助君が映った。
その瞬間、平助君は別に怒ってなどいなかったことを知った。
ただ私が口にした愛の言葉を、私の反応を見ながらもう一度聞きたいだけだったのだ。
それに気づいた私は、ただ両手で口元を覆って真っ赤な顔で平助君を見つめることしかできなかった。
「…………ずるいよ、平助君」
なんとか漏らした言葉は、
「その言葉はもう聞き飽きたっての」
と笑った平助君の唇に塞がれた。
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発行したときはまだそんなに平ちづが人気じゃなくて、発行部数で悩んだのを覚えてます。
暁葉さんの描く平助君が可愛いすぎてデレデレしてたのもいい思い出です。