2009年08月に発行した合同誌「pretty face」の小説の続きのお話です。
ED後のほのぼのした二人をイメージしました。










布団の中に入りながら、私はゴロゴロと何度も寝返りを打っていた。 日中に膝枕で熟睡してしまった私は、夜眠れなくなるという子供のような理由で眠れなくなっていた。

「……寝れないのか?」

隣で眠っていた平助君の言葉に、私は「うん」と小さく返事した。






Θ 月 明 か り 背 中 に Θ






眠れない私を平助君が散歩に誘ってくれた。 こんな遅い時間に外を散歩するのは初めてで、なんだかすごくドキドキする。 新選組にいた頃も巡察でこの時間帯に出歩いたこともあった。 けれど、あの頃は常に緊張の連続で、敵に見つからないよう月明かりの届かない道ばかりを歩いていたから、 こんなふうに星空を見上げる余裕なんてまったくなかったのだ。





「わぁ…。綺麗だねっ。平助君」
「……だな」

視界いっぱいに散らばる星はまるで手を伸ばせば届きそうで、

「……やっぱり無理かー」

思わず片手を伸ばしてみたけれど、予想通りその手は何もつかめない。

「わっ……とと」

勢いよく腕を突き上げたせいか、それとも星空に見惚れて姿勢をそらしすぎたせいなのか、 重心が後ろに逸れた私の体はそのまま倒れそうになった。 けれど、宙を切る手を平助君がパッと掴むと、後ろから抱き締めるように私を支えてくれた。

「危ねーっての」
「だって、取れるかと思ったんだもん」

にっこりと口にすると、平助君は苦笑して答えた。

「取れねーよ」
「わかんないじゃん」

そのままの体勢で、私は再び星空を見上げて伸ばした。

「そんなに欲しいならさ」
「うん?」
「流れ星にでも頼めばいいんじゃねーの?」

言われて思わずパチンと手をたたいた。 こんなにもたくさんの星が出ているのだ。 根気強く見ていれば、いつか流れ星を見ることができるかもしれない。

「うん、そうする。ありがとね、平助く……」

顔を見てお礼を言おうと彼の方に向けると、予想外の近さに心臓が跳ね上がった。 その瞬間、背中には平助君の温かな体温を感じてますます心臓が騒ぎ出した。

「あ? どうかしたか?」
「う、ううん」

平助君に声をかけられるまで、見惚れていたことに気づかなかった。 ハッと我に返った頃にはもう遅く、腰に回された腕の温かさに、 耳や髪に当たる平助君の呼吸に、私の意識は奪われていた。





「あ、千鶴。今、流れ星」

その言葉に慌てて平助君と空を交互に見上げる。

「……えっ? えぇっ!」

ほんの少し前まではあんなに星に熱中していたというのに、全く気付くことができなかった。

「嘘っ、どこっ?」

必死に探してみたけれど、もう流れ星はどこにもなくて、

「なんだよ、見てなかったのかよー」

そう言うと平助君はパッと抱きとめた腕を離し歩き出した。

「平助…くん?」

離れてしまった温もりに、ひどく残念に思う自分がいて思わず顔が赤くなってしまった。 いつからこんなにも、欲張りになってしまったのだろうか。 隣にいるだけでも十分幸せだというに、 もっともっと平助君に触れていて欲しいと思ってしまう自分がいたのだ。

「ほら、あっちのが星が良く見えるんだって。行くぞ」

私の呼びかけに平助君はにっこり笑うと、海岸の方を指差した。 逆光になって平助君からは私の表情は見えなかったのだろう。 そのまま前を向くと、すたすたと歩き出してしまった。

「ま、待ってよ〜」

その距離を詰めるように私も慌てて後を追ったけれど、 私が真っ赤な顔をしていたことはお月様にはきっとバレバレだったのだろう。

「あっ、平助君っ。走ったら追いつけないってば!」

星を掴めなかった両手で、私は平助君を追いかけた。



願わくば、
私のこの両手が平助君を掴んで離さないように、
そして、平助君もずっと私を離さないでいてくれますように。



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小説の続きのお話です。