Θ 雪舞う場所で Θ
ふわふわと舞う雪を、一さんと一緒に眺める。
戦ばかりのあの頃は、こんなふうに雪を楽しむ余裕すらなかった。
チラリと隣の一さんの顔を見上げると、彼は口元に笑みを浮かべていた。
戦いのときとは違う、穏やかな笑み。
そんな彼の隣にいることに幸せを感じながら、私もそっと雪を見上げた。
「……千鶴」
名を呼ばれ再び一さんを見上げると、彼はふわりと微笑んで両手を私の頬に添えた。
「きゃっ」
そのあまりの冷たさに小さく悲鳴を漏らすと、彼は悪戯が成功した子供のように笑う。
「もう。一さんの意地悪」
「お前の反応が可愛くてな」
そんなことを言われてはこれ以上怒ることなんて出来ず、
私はその冷たい手にそっと触れた。
「こんなんじゃ風邪引いちゃいますよ」
「……お前は温かいな」
そう笑う一さんに、私は口を尖らせて答える。
「一さんは外で雪ばっかり見てるからですよ」
仕事が終わって一さんが真っ直ぐ家に帰ってきた試しはない。
彼はいつだって外で雪を眺めるから、私は一さんを迎えに行くのだ。
私よりも雪の方が好きなんじゃないかと馬鹿なヤキモチを妬いてしまうほどだというのに、
「問題ない。俺は雪より千鶴の方が好きだ」
「………ッ」
彼はサラリとこんなことを口にするから、私はいつだって真っ赤にさせられっぱなしだ。
そんな私の反応を一さんは楽しそうに眺めていたが、
「だが……そんな格好で出てきては風邪を引く」
一さんは自分の首に巻いていた物を外すと私の首に巻きつけた。
一さんの温もりが直接首に触れたようで、なんだか気恥ずかしい。
それに、私がこれを借りてしまっては一さんが風邪を引いてしまうだろう。
「これじゃ、一さんが寒くなっちゃいます」
慌てて外そうと首に手をやると、
「俺はこうするから寒くない」
言って、一さんは私の身体をぎゅっと抱きしめた。
「は…一さん……っ」
突然のことに驚いて顔を真っ赤にさせながらもその腕から逃れようとすると、
「なんだ? 嫌か?」
なんて一さんが言うものだから、その視線から逃れるように私はポツリと
「い…嫌じゃないです」
と呟く。
一さんに触れてもらうのは嫌じゃないし、抱きしめてもらうのは寧ろ大好きだ。
「なら、問題ない」
一さんはそう言って笑うと、私を抱きしめた。
ふわふわと舞う雪は確かに冬の寒さを現していたけれど、
私は溶けそうなぐらい真っ赤な顔をしているのだった。
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