Θ 温もりに触れて Θ



最近、私には強力なライバルがいることに気づいた。 土方さんはまあいい。 斎藤さんの憧れの人だし、なんていっても男の人だから。 でも、女の子に優しい顔をする斎藤さんに、落ち込む自分がいた。 斎藤さんは私には全然笑ってくれないのに、その子には簡単に笑みを浮かべてしまうからだ。





「……本当にずるいよなぁ」

馬小屋で、私は一頭の馬を目の前に呟く。

「私も馬だったら良かったのかなぁ」

餌を与えると彼女は私の呟きには答えずにムシャムシャと食べ始めた。 目の前の真っ黒な馬は斎藤さんの愛馬で、私のライバルだ。

「そりゃ、私は新選組の仲間じゃないし、突然転がり込んだお荷物だし……」

思い返せば迷惑しかかけていないように思った。 京に来たその日に羅刹を目撃しちゃうし、 風間さんっていう鬼には狙われるし。 屯所の中で私にできることは少なくて、お掃除も遅くて手伝ってもらっている。 ご飯を与えてもらっている身だから、横からお腹を空かせた他の幹部の人に 奪われるのは仕方ないって諦めてても、斎藤さんがちゃんと自分の分を分けてくれる。

「……おまえはいいね。ちゃんと斎藤さんの役に立って……」

ちょっと考えただけでも迷惑しか浮かんでこなくて泣けてきた。 私がここにいなければ、きっと新選組のみんなは戦いが楽になるのに、 弱虫で寂しがり屋の私は、出て行くことができないのだ。

「……駄目、だな……私。……ちょっと落ち込んじゃったよ」

居心地の良さに甘えて、彼らに迷惑をかけて。 そんな自分が嫌で仕方なかった。 思わず涙腺が緩んで唇を噛みめたら、 急に私が黙るものだから馬が鼻先をこすりつけてきた。

「ん? なぁに? 慰めてくれるの?」

私はこの子をライバルだと思っていたのに、そんな私を彼女は慰めてくれるらしい。

「ふふ、ありがと。大丈夫。私はまだ頑張れるよ」

そう口にすると

「そう言うことは、馬相手じゃなく誰か人に言え」

と背後から声がした。

「……斎藤…さん?」

振り返ればそこにいたのは斎藤さんで、淡々と口を開いた。

「言う相手がいないのなら、俺でもいい。だから……」

そのままゆっくりと近づくと、そっと私の目元へと手を伸ばす。

「一人で泣くな」
「……っ」

涙を堪えたつもりだったのに、いとも簡単に見破ってしまう斎藤さんにまた涙腺が緩む。

「……何故泣く」
「ごめん…なさい」

そんな私を、斎藤さんは困ったように笑った。 土方さんやこの馬には斎藤さんは笑うのに、私にはいつもこんな笑顔なのだ。 それが私には物足りないのだ。





「お前は、役に立とうとしなくていい」

斎藤さんは私を見つめたまま口を開く。

「荷物だなんて誰も思っていない。お前はいてくれるだけでいい」

普段あまり口を開かない斎藤さんが、私の不安を拭うように淡々と喋る。 それは私が馬に愚痴ていたことだと気づいて顔が赤くなってしまった。 彼は一体いつから聞いていたのだろう。

「無論、お前が馬である必要はない」
「!」

顔を上げると口元に笑みを浮かべる斎藤さんがいた。

「…馬だと困る。……こういうことが出来ぬからな」

そのまま彼は近づくと、その両手に私を抱きとめた。

「斎藤…さん?」

土方さんや馬には笑顔で私には苦笑しか見せてくれないから、この行動に頭が混乱していた。 斎藤さんの顔をそっと覗き見ると、やっぱり彼は少し困ったように笑っていた。

「…………あ」

けれど、近くで見て気づいたことがある。 その頬にうっすらと赤みがかかっているということは、もしかして……、ひょっとして……。

「お前のことはこうしたいと思う対象だ」
「……ず、ずるいですよ。その答え」

私の言葉に斎藤さんはふわりと笑うと、

「俺じゃなく、こいつにばかり素直なお前が悪い」

と告げた。 それは私がこの子に悩みを告げたのが今日が初めてではないことを物語っていて、 いつも近くに斎藤さんがいたのだと気づいたら、胸が温かくなった。

「……こ、今度は……斎藤さんにお話しします」
「なら、俺はお前が悩まずに済むよう努力しよう」

そう言って斎藤さんが私の望む笑みを見せてくれたから、 私は顔を上げることができずにそっと斎藤さんに体を預けるのだった。



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シンロさんとの萌え語りから^^