Θ いつまでも明けない夜 Θ
いつも寒くて布団から出れないのに、今日は何故かそんなに寒いと感じなかった。
まだ日も昇っていない時間に目が覚めてまった私は、寝返りを打って固まってしまった。
「……っ!」
布団が映るはずの視界に、誰かの頭が見えたのだ。
思わず身を乗り出してその人物確認すると、斎藤さんだった。
そういえば以前、平助君に斎藤さんの寝ぼけ癖を聞いたことがあった。
厠に行った帰りなどによく部屋を間違えてそのまま眠ってしまうらしい。
だからきっと今回も寝ぼけて私の部屋に来てしまったのだろう。
ここで私が大声を上げれば斎藤さんに迷惑がかかってしまうので、
深呼吸をしてから肩を揺すってみた。
今ならそっと部屋に戻れば誰にも気づかれないはずだから。
「斎藤さん……、起きて下さい、斎藤さんっ」
「……ん」
肩を揺すってみると斎藤さんはすぐに目を開けた。
けれどいつものような鋭い眼光ではなく、まだ夢現にいるような寝ぼけた様子だ。
「どうか……したのか?」
「どうかしたじゃないです、起きて下さい」
「……眠い」
「わーん、寝ちゃダメです」
こんな姿誰かに見られたら困るのは斎藤さんなので必死になって起こしていると、
「そんなに慌てなくてもそのうち目を覚ますよ」
という声が聞こえた。
「そうですか?」
「そうそう。だから君は一君が起きる前に着替えでもしちゃったら?」
「そう……ですね……!?」
思わず受け答えをして声の方を振り返れば、
斎藤さんとは逆側に沖田さんの姿があった。
「お、おお、おきっ……」
「ん? 見ての通り僕は起きてるけど?」
驚いて名前をうまく呼ぶことができないと知っているくせに、
彼はニタニタと意地の悪い笑みを浮かべて告げた。
「な、なな、なんで沖田さんがここにいるんですか!」
真っ赤な顔でそう抗議すると、彼はシレッと答える。
「えぇー? 僕ちゃんと聞いてから布団に入ったよ?」
「え? ……い、いつですか?」
寝る前にそんな確認をされた覚えもなかったし、
沖田さんに会った覚えもなかったのでそう答えると、
「んーと、千鶴ちゃんがニヤニヤ笑いながら寝てたとき」
「に、にやにや!? って、寝てた時じゃ意味ないじゃないですか!」
人が寝てるのをいいことに、何をしでかしているのだろう。
「僕だけ怒られるのも嫌だから、寝ぼけた一君をここまで誘導したのも僕だけどね」
片目を瞑って「てへっ」と舌を出して告げる姿は可愛げも何もなくて、
寧ろ軽く殺意を覚えてしまった。
「……沖田さん。今すぐ布団を出て行くのと、土方さんを呼ばれるのとどっちがいいですか?」
にっこりと笑みを浮かべて私は尋ねた。
「何で起きて早々、あの人の顔見なくちゃなんないのさ」
沖田さんは明らかに嫌そうな顔をした。
「沖田さんがしょうもないことをするからです」
「……一君はいいの?」
恨みがましそうな視線を向ける沖田さんに、今度は私がシレッと答えた。
「だって悪いのは全部沖田さんで、むしろ被害者じないですか」
「ちぇー」
沖田さんは面白くなさそうに唇を尖らせて渋々布団を出て行った。
「はい、どーぞお帰り下さい」
襖を開けて退場を促すと、彼にしては珍しくすんなりと出て行った。
けれど、私が襖を閉めようとした瞬間、
「あ、忘れ物」
そう言ってニタリと口元に笑みを浮かべるとそのまま私の唇を塞いだ。
驚きのあまり目を丸める私の目の前で、
「じゃ、良い夢を」
なんて言って沖田さんは襖を閉めたけれど、
私のなけなしの睡魔は今の一撃で飛んでいってしまった。
ヘナヘナとその場に腰をおろしながら頭を抱えた私には、
寝ぼけて眠る斎藤さんをどうすべきか考える余裕なんてなくなってしまった。
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