Θ 境界線の上で踊る Θ
いつものように沖田さんは私をからかって遊んでいるのだろうか。
それにしてもこの状況は少しだけ困る。
境内でほうきを片手に、私は今、沖田さんに背後から抱きしめられていた。
たいした戦力にもならない私は、毎日のように境内の掃除をしていた。
落ち葉を集めると結構な量になったので、前回もやった焼き芋をやろうと近藤さんに声をかけた。
彼は喜んでお芋を持ってきてくれて、私はそれを紙に包んで焚き火の中に放る。
火を扱っているのだからこの場所を離れることが出来なくて少しだけ退屈だったけれど、
風が冷たくなったこの時期の焚き火は暖かい。
ほうきで足元の落ち葉を払っていると背後から声をかけられた。
「こんな寒い日に何してるの?」
振り返ればそこにいたのは沖田さん。暖かい場所を求めていたのか火を見ると口の端を微かに持ち上げた。
「お掃除のついでに焼き芋です」
「へぇ。僕も食べたいな……」
「はい。焼けたら持って行きます」
そう答えたのに沖田さんは動こうとはしなかった。
「えっと…。外は寒いですし部屋で待っててくださればお持ちしますよ?」
おずおずと言葉を続けると、沖田さんは納得したように
「うん。ここは寒いね」
と答えた。けれどやっぱり部屋に帰る様子はない。
沖田さんの行動は不思議だったけれど、私はペコリと頭を下げて再び焚き火へと向き直る。
その瞬間、
「!??」
ガバッと背後から誰かに抱きつかれてしまった。
もちろんこの場にいたのは私と沖田さんだけだったから、背後の相手は沖田さんだ。
「あははー。隙ありー…なんてね」
「お、沖田さんッ」
慌てふためく私を沖田さんは目を細めて楽しそうに見つめる。
近距離で顔を見られることに慣れていない私は、必死に視線をそらして顔を赤らめるばかりだ。
「からかうつもりだったけど……君、予想以上に抱き心地いいね」
「抱っ!?」
後ろから沖田さんが抱きついているということは、もちろん私は沖田さんの両腕の中なわけで、
すっぽりと包まれてしまっていると自覚したら余計に恥かしくなってきた。
「あー、暴れないでくれるかな?」
なんとか腕から逃れようと動く私を、沖田さんはますます強く抱きしめる。
「い…、嫌…ですっ。放…して下さいっ…」
なおも暴れる私に、沖田さんは「僕の聞き間違いかなぁ」とぼやきながらも同じ言葉を告げた。
ただし、語尾に追加された言葉は私の動きを止める効果が絶大だった。
「暴れないでくれるかな? 言うこと聞かないと、殺しちゃうよ?」
「うっ…」
彼の場合、冗談ではないことをこの短い付き合いの中で十分すぎるほど理解させられた。
動けなくなった私に沖田さんは「あったかいねー」と告げる。
いつものように沖田さんは私をからかって遊んでいるのだろうか。
それにしてもこの状況は少しだけ困る。
お芋だっていい加減取り出さないと焦げてしまうだろう。
けれど、一番困るのは沖田さんの腕がドキドキしている私の胸の音を捉えてしまうんじゃないかということだ。
でも、もしかしたらそんなのは、とっくにバレているのかもしれない。
だって、微かに見える彼の表情はすごく上機嫌だったのだから。
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