私が永倉さんを好きだと自覚したのは、つい最近のことだった。
いつも優しい原田さんや、気軽に話し掛けてくれる平助君。
そんな二人と一緒に永倉さんも休憩時間には私をお茶に誘ってくれた。
けれどある日を境に、永倉さんの姿を見ない日が続いたのだ。
ただの風邪とは聞いていたけれど、心配でたまらなくて、「あぁ、彼のことが特別なんだ」と自覚した。
Θ 涙の種、笑顔の花 壱 Θ
「あーぁ。やっぱ新八っつぁんがいねーと千鶴の元気がねぇなぁ」
お茶をすすりながら平助君はぼやき、
「仕方ねーだろ。千鶴は俺たちじゃなくて新八がいいっつってんだから」
と原田さんも口を開く。私は両手で湯飲みを握り締めて、
ただぼんやりと二人の会話を聞いていたのだけれど、暫くしてハッとしたように顔を上げた。
だって二人の話しぶりでは私が永倉さんを好いていることが二人にはバレていたのだ。
恥かしくて真っ赤な顔で口を動かす私を、二人がニヤニヤと見つめる。
「なんだよ、千鶴」
「オレたちにバレてねーと思ったのか?」
言われて両手で頬を覆ってしまった。
二人にバレているということは、永倉さんも気付いているはずだからだ。
(次に会うとき、どんな顔をして会えばいいんだろう……)
そんな心配をする私に、原田さんは苦笑して口を開いた。
「ま、あの馬鹿だけは気付いてねーんだけとな」
「っつーか、新八っつぁんは気付かねーと思うけど……」
「だよなぁ。なんで自分の事に関してはにぶいんだか」
「頭ん中まで筋肉で出来てんだぜ。きっと」
二人して次々と口を開くと、「バカだよな」と呟いて同時に溜息をつく。
その意味を私は理解できなかったのだけれど、永倉さんが気付いていないことに安堵しつつ、
けれどまったく気付いてもらえていなかったことに少し落ち込んだ。
矛盾した自分に呆れて溜息をついたのに、原田さんは私が落ち込んだと勘違いしたようだ。
ポンといつものように私の頭に手を載せ、ぐぃと顔を上げさせると、
「千鶴のためだ。俺たちでよけりゃ協力してやるって」
と言って笑った。
そんなわけで原田さんや平助君に協力をしてもらうようになったのだけれど、
今日も私の部屋では反省会が行われていた。
というのも、久しぶりに永倉さんと顔を合わせたというのに、私が何も喋れなかったからだ。
まだこの気持ちに気付いていなかった頃は普通に笑えていたのに、
今は永倉さんの隣で笑うことを難しいと感じた。
意識してしまえばしまうほど、表情が硬くなってしまう。
「っつーか、あいつが気ぃきかして喋りゃいいだけだろ。大体、女に告白させるなんてありえねーだろ。ありゃ新八が悪い」
原田さんは苦笑してお酒をあおった。
「いーや。やっぱここは千鶴からもっと攻めた方がいいと思うぜ。オレは」
その横で平助君もお酒を飲みながら口を開く。それから私をチラリと見て口を開く。
「てか、オレはそもそも千鶴がなんで新八っつぁんがいいのか不思議だよ」
「そりゃ、千鶴ちゃんの趣味が悪いからだよ」
平助君の言葉に、第三者が口を開いた。
「のわっ、総司! どっからわいて出やがった!」
「やだな。僕も千鶴ちゃんの応援にきたのに」
沖田さんはそういって私に笑みを見せるのだけど、私は怖くて思わず原田さんの背中に隠れてしまった。
「君までひどい態度だね」
「仕方ねーだろ。総司は今まで散々物騒なこと言って千鶴をびびらせてきたんだからよ」
原田さんの言葉に納得したのか「ふーん」と沖田さんは返事した。
「じゃあ左之さんが一肌脱いであげたら?」
「は?」
「だから、僕の応援はいらないみたいだから、代わりに左之さんが一肌脱いだらいいよ」
そう言って
「左之さんが千鶴ちゃんに気があるそぶりを新八さんの前ですればいいんだよ」
ニタリと笑みを浮かべると、沖田さんは私の手から湯飲みを奪って飲み干した。
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