こんなものに頼るのはらしくねーけど、俺にしてやれることなんてこれぐらいしか思いつかない。
だから巡察の帰りに河原で額を擦りつけるように、俺はせっせと探していた。
Θ 幸せさがし Θ
「うーん…、ねぇなぁ」
さっきから葉っぱが三つのものばかりいたるところにある。
けれど、俺が探し求めているのは葉が四つのものだ。
本当にそんなものなんて存在するのだろうか。
「あー…、でも稀だからこそあれか」
そんなことをぶつぶつと呟いていると、
「何が稀なんですか?」
とすぐ近くで声がしたもんだから驚いて「おわっ」と声を上げてしまった。
俺の後ろには千鶴ちゃんがいて、しゃがみこんで俺の行動をジッと見ていたようだ。
「な、なな、なん…で、なんで千鶴ちゃんがこんなとこに?」
動揺がそのまま声を伝う。素っ頓狂な声に、彼女は小さく笑う。
あぁ、そんな顔も可愛いなぁなんてデレッと鼻の下を伸ばして笑いつつ、すぐに頭を振って気を引き締める。
千鶴ちゃんはそんな俺の一瞬の出来事に気づかず、
「原田さんに聞いたらまだ巡察から帰ってないって聞いたので、探しに来ました」
その言葉に俺は彼女の肩を両手で掴んで口を開く。
「ひ、一人で出てきたのか? 土方さんに許可は?」
「えと、あの……」
彼女は俺の勢いに驚いて目をぱちくりさせて、けれどすぐにふわりと微笑むと、
「原田さんと一緒に出てきたんです。今も、そこのお店で待っててくれていますよ」
そう言って指をさしたのは、左之が普段行かないような、お酒の置いていない店。
本当に千鶴ちゃんのためだけに出てきたんだということがわかる。
いや、この場合は俺のためでもあるのだろう。
「どうかしましたか?」
いつのまにかまた俺の口元が緩んでいたのだろう。
千鶴ちゃんは不思議そうな顔で俺を見つめていた。
「いや、なんでも。で、俺に何か用事だったのか?」
わざわざ千鶴ちゃんが俺を探していたということは、急ぎの用事だったのだろう。
そう思って今日の作業は終えようとしたのに、
「えと。永倉さんこそ探しものですか? 私、お手伝いしますよ」
と言ってしゃがみこんでしまった。
彼女の顔が一瞬赤くなったような気がしたけれどすでに地面に伏せられていて、
これでは確認のしようがない。
「あー…その、葉っぱを……な」
仕方なく俺は千鶴ちゃんに説明をした。
「葉っぱ……ですか?」
「あぁ。ここにあんのは三つ葉だろ? けどな、四つ葉のがあるはずなんだ」
「それを探せばいいんですね」
千鶴ちゃんは手が汚れるのもお構いなしで、必死に四つ葉を探していた。
女の子が地面に顔をこすりつけてる姿なんて俺は見たことがなかったから驚いてしまった。
けれどそれはなんだか千鶴ちゃんらしくて、笑えてしまった。
「結局見つかりませんでしたね」
千鶴ちゃんは申し訳なさそうに俯いて口を開いた。
いい加減日も傾いてきてしまったので今日はお開きだと言ったら、そう告げたのだ。
「別に千鶴ちゃんが気にすることじゃねーよ。俺がただ、欲しかったんだ」
「あ。そうです。結局なんで探していたのか、まだ聞いてません」
千鶴ちゃんはそう言って、ジッと俺の顔を見つめる。
俺と千鶴ちゃんには身長差があるわけで、だから自然と彼女は上目づかいで俺を見つめる。
彼女にその気がなくても俺にはそう見えちまうからバクバクとうるさいぐらいに心臓は騒ぎ出していた。
「その…つまりだ……」
ごくりとツバを飲み込んで、カラカラの喉を潤しながら口を開く。
「幸運のお守り……らしいんだ」
巡察の途中でガキどもがそんな話をしているのを耳にした。
俺は左之みたいに男前でもないし、平助のように千鶴ちゃんを笑わせることができないから、
ならせめて彼女の幸せを願いたいと思った。
それが俺が千鶴ちゃんにしてやれる唯一のことだからだ。
「そうなんですか? じゃあ永倉さんの幸せのためにも、次は絶対見つけましょうね」
千鶴ちゃんはそう言ってにっこりと笑うけれど、俺は頭をふる。
「いや、俺のじゃなくて……」
勘違いした彼女に訂正しようと思った。
けれど千鶴ちゃんにあげるはずだったとは、見つけなれなかった手前どうしても言えなかった。
「永倉さんのじゃないんですか?」
「あぁ」
だってさっきまでの時間は俺にとっては至福のようだったから、
俺にはおまもりなんてもったいないように思えてしまった。
「じゃ、永倉さんの分は私が探します」
口に濁した俺を問い詰めるでもなく、千鶴ちゃんはそんな可愛いことを口にした。
そんなことを言われたら、俺は馬鹿なことを期待してしまう。
千鶴ちゃんが俺を探してくれた理由は、俺に会いたかったからなんじゃないか≠ネんて、
自分で想像して顔が赤くなってしまった。
そんな俺に気づかず、千鶴ちゃんは両手を握りしめて口を開いた。
「だから、明日は巡察から誘って下さいね」
「へ?」
「だって、そうしたらいっぱい探せるじゃないですか。それに」
ふふっと千鶴ちゃんは意味深に笑うと、小走りで駆け出した。
「それに……の続きは?」
気になってしまった俺は素直にそう尋ねるのだけれど、
「内緒です」
と彼女は小さく笑った。
今はまだ、それでいいのかもしれない。
俺も彼女に言えない秘密があって、彼女も俺に秘密をもって、
いつかそれを教え合う日がくるようなそんな気がしたから、
「そか」
俺も口元に笑みを浮かべて彼女の後を追った。
» end