Θ [09] 手を引く (キュンとくる10のお題) Θ
永倉さんを好きだと自覚してから、彼の顔が見れなくなった。
それでも彼は変らずの態度で私を外に誘うから、
私の気持ちが全然伝わっていないんだなとちょっと落ち込んだ。
「ほんっとにあそこの団子はうめぇからよ」
「…………」
以前は並んで歩いた道のりも、今日は少し後ろを歩く。
だって隣に並んでしまったら、きっと私は呼吸が出来なくなって死んでしまう。
「千鶴ちゃんもぜってぇ気に入ると思うんだ」
「……楽しみです」
永倉さんの気分が悪くならないように、返事だけはちゃんとする。
それでも、油断したら口から心臓が出そうなぐらい、緊張で心臓がばくばくいっている。
「…………」
「…………」
会話が止まり顔を上げると、数歩先で永倉さんが立ち止まっていた。
「どうか…しましたか?」
「いや。千鶴ちゃんが追いつくの待ってた」
どうやら彼は自分が喋るのに夢中で歩みが速くなったと思ったらしい。
これでは余計な気を使わせてしまうと、私は小走りで永倉さんとの距離を縮めるけれど、
やっぱり隣に立つことはできない。
「……あの、よ」
「は、はいっ」
ビクリと肩を震わせて返事すると、永倉さんが笑ったような気がした。
「また離れるといけねーし、手、引いてもいいか?」
「へ?!」
断る理由はない。
寧ろ手を繋ぐなんて夢のようなことで万々歳だけれど、
意識したらなんだか手に変な汗をかいてしまった。
ガシガシと何度も着物で手を拭いおずおずと手を差し出すと、永倉さんはまた笑った。
何事もなく歩き出した永倉さんの一歩後ろを私は歩いていた。
二人の距離はちょうどお互いの手の長さ分だろう。
それでも、今の私にはそれが精一杯。
握った手の平から私の想いが全部通じてしまえばいいのにと思いながら、
ちょっとだけ、繋いだ手に力を込めてみた。
(手を繋ぐだけでもこんなだし、告白したらきっと私、死んじゃうな……)