Θ [08] 目線が合う (キュンとくる10のお題) Θ
何気なく稽古の手を止め、視線を前方に送る。
そこには見学していた千鶴ちゃんがいて、目が合った瞬間にパッとそらされてしまった。
「なんだ? 千鶴と喧嘩でもしたか?」
「ち、違ぇよ」
左之はそんな様子に気付いてニタニタと笑みを浮かべる。
俺と千鶴ちゃんは喧嘩するような、そんな間柄ではない。
時折視線を感じて目を向けるけれどすぐにそらされてしまう。
「そういいつつ、さっきからやけに気にしてんじゃねーか」
「……毎回視線が合うたびにそらされっから気になるだけだ」
「そりゃ嫌われてんだろ」
サラリと左之に言われて、「……だよな」と情けない声が漏れた。
そんな俺を左之はクッと笑って、
「っつか、てめーはなんでそんな千鶴を気にすんだ?」
「だから……、千鶴ちゃんが俺と目が合うとそらすから……」
「じゃなくて。てめーが千鶴を見なきゃんなことでいちいち落ち込むこたねーんじゃねーのか?」
言われて気づいた。
俺は何度目をそらされても、千鶴ちゃんを見つめてしまうのだ。
「もう一ついいことを教えてやる」
左之はそう言うと、俺に顔を近づけ口を開く。
「あのな、目が合うってこたー相手もてめーを見てるってことだ」
「?」
「だから、新八が千鶴を見ちまうように、千鶴もお前を目で追っちまうんだろ?」
「へ?」
左之の言っていることが理解できない。
言葉の意味はもちろんわかるのだけれど、だってそんな、夢みたいなことってあるのか?
「あとはてめーで考えな」
言って左之はヒラリと手を振って出て行く。
取り残された俺はおずおずと千鶴ちゃんへ視線を向ける。
「……ッ」
やっぱりすぐに顔をそらされてしまったけれど、
ほんのりと色づく頬に気づいて俺まで真っ赤になってしまった。
(つか、お互いに気にしてるってなんで気付かねーのかね。こいつらは)