Θ [07] 後ろからギュッ (キュンとくる10のお題) Θ
「あ…あのな、千鶴ちゃん……」
「はい」
真っ赤な顔で正面を向いたまま、私は固まった。
だって急に背後から誰かに抱きつかれたと思ったら、
その相手は予想外にも永倉さんだったのだ。
「そ…そのまま聞いて欲しいことがあんだ」
「……なん…でしょう」
永倉さんにこんなことをされるなんて想像すら出来なかった私は、
恥かしくてどこを見たらいいのか分からないまま、自分の足元を見つめる。
「そ…その……えぇと……」
密着しているからこそ、永倉さんの緊張が余計に伝わってきた。
ドキドキと大きな心臓の音は、私と永倉さんどちらのものだろう。
「前から思ってたことがあってな」
「俺、その……、俺…は……だ、」
「千鶴ちゃん…のこと…が……だからその……」
苦しいぐらいに抱きしめられた手が震えているように見えて、
私はそっと自分の手を重ねた。
「ゆっくりでいいです。……ちゃんと聞きますから」
彼がどうしてこんな行動に出たのかを考えたら、
彼の伝えたいことが理解できたから、
私は黙って彼の言葉を待つ。
「だぁぁぁ。一度しか言わねぇ、よく聞いてくれ」
きっと面と向って告げられないぐらい恥かしいことなのだろう。
本当ならこのまま私が返事を告げたほうが彼は楽になれるのかもしれないけれど、
私だって女の子だ。好きな人からのその言葉は何よりも聞きたい。
「……はい」
振り返らなくても永倉さんはきっと真っ赤だ。
唯一視界に入る手まで真っ赤で、そんな両手に抱きしめられて私の身体まで熱を持つたようだ。
「俺は千鶴ちゃんのことが……」
聞こえた瞬間私はバッと振り返る。
予想通りの真っ赤な顔に微笑みを浮かべて、そっと耳元に唇を寄せた。
(私も永倉さんのことをお慕いしてます)